第24章 麦と真珠(政宗)
政宗たちが出発してからというもの、
愛は出来る限り明るく過ごした。
針子部屋ではいつもと変わらずみんなが他愛もない話をし
そして笑い合う。
いつもは政宗が差し入れる見張り小屋のお菓子も、
早起きをして手作りした。
城の仕事が終われば、御殿に戻り
政宗のために着物を縫う。
渡したあの絵の通りの着物を仕上げるために。
わざと細かなデザインにした。
きっと出来上がるまでには三月はかかるだろう。
それでもいい。
これが仕上がる頃、政宗は元気に帰ってくるはず。
それが愛の願掛けでもあった。
今日も針子部屋は休憩中の団子を食べながら
和気あいあいと時間が流れる。
小夏を除いては。
『こなっちゃん?食べないの?
私が食べちゃうよ?』
佐江がいたずらに笑いながら小夏の皿に手を伸ばす。
『あ…はい、よければどうぞ…』
皆は顔を見合わせてため息をつく。
「こなっちゃん、大丈夫だよ。
待ってる私たちが元気でいないと、思う存分みんな仕事できないよ?」
愛も極力明るく小夏に接する。
『愛様は…!』
突然小夏が大きな声を上げて周りが驚く。
「え?」
『愛様は政宗様が心配ではないのですか?
こんな…笑いながらお茶なんてできません!』
そう言うと勢いよく立ち上がる。
その拍子にお茶が倒れて、皿の上の団子が水浸しになった。
しん……
一刻の静けさののち、
「あらあら…こなっちゃん着物も濡れて…
今拭くもの持ってくるね」
愛はそう言うと、部屋を出た。
『ちょっと!こなっちゃん!』
佐江が小夏を咎める
『あ…私…す、すみませんっ』
我に返った小夏はあたふたと周囲を片付ける。
『愛様が明るく振舞っているのは…
あなたのためでもあるのよ?』
佐江は呆れたように続ける。
『愛様が不安そうな毎日を過ごしたら…
こなっちゃんも、もっと不安になるでしょ…』
『私の…』
『そうよ。不安じゃないわけないじゃない。
愛様だって、こんなに政宗様と離れるのは初めてなのよ?』
『えっ?そ、そうなんですか…?
てっきり…もう慣れっこなのかと…』
小夏はすっかり肩を落とす。
『馬鹿ね…愛する人が戦場に行くのに慣れる女なんて一人もいないわよ…』