第24章 麦と真珠(政宗)
安土城の城門には多くの人々がひしめき合っていた。
『愛様!』
門を出ると真っ先に小夏が大きく手を振った。
隊が見える最前列に、今にも泣き出しそうな顔で。
しかし、その後ろに信長がいる事に気づくと
小夏は慌てて手を降ろす。
『失礼致しました!』
深々と頭を下げる小夏に
「大丈夫だよ、顔あげて?」
愛は優しく声をかける。
『ですがっ…』
「気に病むことはない」
信長はそう言うと既に馬に跨っている政宗の元に近寄る。
「こなっちゃん、顔上げて、しっかりお見送りしよう」
そう言うと優しくその肩に触れた。
『はい…』
不安で押しつぶされそうな自分とは反対に
笑顔を見せる愛に小夏は少し驚いていた。
「政宗、ぬかるなよ」
信長は不敵な笑みを携えて声をかけた。
「もちろんですよ。援軍の到着を待たずに決着をつけてきます」
政宗は自信満々に応える。
『おい、俺たちも後から追いつくんだから、無茶するなよ』
信長の後ろから怪訝な顔の秀吉が声をかける。
政宗の後方にいる日吉を小夏は見つめていた。
(どうか無事で…)
その目には涙をいっぱい浮かべて。
「ほら、泣いちゃだめだよ、しっかり目に収めて」
愛は笑いながら小夏を励ます。
『愛様は慣れているのですね…』
グッと堪えた小夏は言葉を絞り出す。
(慣れてなんかない…慣れるわけないよ…でも…)
そんなやりとりを知ってかしらずか政宗の声が響く。
「おい、お前ら、気を引き締めて行けよ。
誰一人欠けることは許さねぇ。全員で戻る。
大切な者が待つことを忘れるな!」
『おー!!』
猛々しく声が響き、馬が動き出す。
政宗は最後に愛をチラと見て
「行ってくる」
そう声に出さずに口を動かし笑った。
「行ってらっしゃい」
愛も声を出さずに笑顔でそう口を動かす。
(神さま…もしもいるなら、政宗を…みんなをお護りください…)
今にも泣き崩れそうな小夏を優しく抱えながら
最後の一人が見えなくなるまで二人で見送った。