第24章 麦と真珠(政宗)
「政宗、手伝うよ」
出発の朝、出かける支度をする政宗に声をかけた。
目の前には用意された甲冑、刀。
否が応でもでも、これから戦に出かける事を突きつけられる。
できるだけ笑顔で…
ずっと決めていた。
自分の涙で揺らぐような政宗ではない。
けれど、それでも、きっと涙よりは笑顔を政宗は望んでいるだろう。
そう心に決めて朝を迎えた。
「おう、頼むな」
政宗はいつも通りの表情で、
まるで城にでも行ってくると言いそうな立ち居振る舞いだ。
政宗の肩に、背伸びをして着物をかける。
微動だにしない政宗に一生懸命着付けをする。
(無事に戻りますように。怪我ひとつなく戻りますように)
ひたすらに願いながら丁寧に着物に触れる。
「できました…」
声が一ミリも震えませんように…
祈るような思いで声をかける。
着付けが終わると、従者たちが甲冑を纏わせていく。
凛々しく準備の整った政宗は
「少し二人にしてくれ」
そう周りの者に声をかけた。
従者が皆部屋を出ると、政宗は静かに愛に近づく。
「しっかり留守を頼むぞ」
そう言うと、愛の頭を優しくなでる。
その感触はいつもの優しい手ではなく、
硬い武具に包まれた手。
声を出せば想いが溢れそうで、
愛はただにっこりと笑って頷いた。
「しばらく触れられないからな…」
そう言うと政宗は、優しく口づけをした。
「ん……」
慌てて目を閉じる愛を
愛おしそうに見つめる。
「寂しくなったら文でも書け。
時々こっちに使いが来るから渡せばいい」
そういうと、またポンポンと頭を撫でた。
愛はその言葉には返事はせず、
「これを…」
と、昨晩したためた絵を渡す。
「ん?もう書いたのか?」
少しおどけたように言いながら
丁寧に折りたたまれた文を広げた。
「…」
その絵に政宗は言葉をなくす。
この時代には無いような繊細な模様の着物に身を包む
自分の姿が美しく描かれていた。
「お守りね」
そう言うと愛はにっこり微笑んだ。
「あぁ…これはどんな神よりも効きそうだな」
そう言うと、政宗は大事に胸に閉まった。
『政宗様、そろそろ…』
襖の外から声がかかる。
「行ってくる」
顔を引き締めて愛に伝えた。