第24章 麦と真珠(政宗)
どのくらい時間が経っただろう。
あれから夢中になって筆を走らせた。
今はいつか佐助にプレゼントされた色鉛筆で色を塗っている。
ーシャッー
物音一つしなかった部屋に襖の開く音が響く。
「おい、まだ起きてたのか」
突然響く政宗の声に驚いたように振り返る。
「わっ!おかえりなさい。終わったの?」
慌てて文机の上の紙を裏返して、笑顔を向ける。
「あぁ…遅くなって悪かったな」
そう言う政宗は少し怒ったような顔をして愛に近づく。
「お前…」
「な、なに?」
「まだ飯も食ってないらしいじゃないか」
そう言うと、思いっきり両手で愛の頬を挟む。
むぎゅぎゅ…
「ご、ごめんなひゃい…政宗と…」
そこまで言った愛の髪の毛をクシャクシャと撫でる。
「ふっ…わかってる」
そう言うと少し呆れたように政宗が笑う。
『お持ちしました』
頃合いを見計らったように女中が膳を運び込む。
目の前に置かれたシンプルな膳に愛は目を丸くする。
「あれ…これ…」
間違うわけがない。
これは政宗の作った雑炊。
愛の大好物だった。
「軍議の休憩中に女中がわざわざ、お前が飯を食わずに待ってると伝えにきた」
(だからって…疲れてるのに作ってくれたの…)
忘れていた熱いものが胸の奥から溢れ
油断をすれば見開かれた窓から溢れそうになる。
「ありがと…」
辛うじて絞り出した声があまりにも掠れて
自分でもびっくりした。
そんな愛を政宗は優しく、
けれど力強く抱きしめた。
「ありがとうはこっちだろ…
待たせて悪かったな」
そう言うと胸から解放し、
「ほら、冷めないうちに食うぞ」
そう言って再び頭をクシャクシャと撫でた。
「うん!
あ、ねぇ、そこで食べよう?今日は十五夜だよ。だから…」
障子の外は夜のはずなのに明るい。
満月は更に輝きを増して夜空を我が物顔に彩っていた。
「そうだな」
可愛いものを愛でるような眼差しを向け
二人分の膳を軽々と持ち上げ
「おい、障子あけろ」
そう声をかける。
愛はゆっくりと障子を開けた。
「おぉ…」
「わぁ…」
二人の声が小さく響く。
「政宗みたいだね…」
小さく呟いきその目に満月を映す愛から
目が離せずにいた。