第23章 黄水仙(家康)
バサっ…
抱きしめた拍子に愛の荷物が落ちた。
けど、そんなの構ってらんない。
「いえやす……?」
愛のとぼけた声も無視して力一杯抱きしめる。
『勝手にいなくならないで…』
我ながら情けない声が出る。
でも、そんなに構ってる余裕なんてないんだよ。
「家康…ごめんね…」
そう言いながら愛は、俺の背中に腕を回して優しくさすってた。
なにこれ…宥められてる?それとも慰め?
いやじゃ…ないけど…。
少しして、力を緩め身体を離す。
愛がまっすぐ俺を見てる。
瞳に俺がちゃんと映ってる。
「ただいま…」
少し照れ臭そうにそう言った。
だから俺はもう一度、今度はちゃんと目を見ながら
『おかえり』
って言えたんだ。
「お腹すいた…」
そういうと、愛はフニャっと笑った。
あぁ…俺の好きな顔、今しないでよ……
もう、押し倒し……
いやいや…それはもうすこし待て俺。
ちゃんと謝ったり、色々しなきゃぃけないから。
なんとか理性を保って、夕餉の膳につく。
「なんか…一緒に食べるの久しぶりだね」
『……』
「美味しそう!いただきますっ」
『……』
「……」
『……』
「怒ってる…の?」
違う!俺、何してんだ…愛が不安そうな顔してるだろ…
ちゃんと……ちゃんと言わないと…
『ごめん…』
「…え?」
え…じゃなくて……
『だから、ごめん……』
「なに…が…」
『あんたが…色々俺にしてくれてたのに…その…
本当はいつも、凄く嬉しかった…し、感謝…してるから』
「ずるい……」
『え?…』
俺はその言葉に驚いて、愛の顔を見る。
「急にそんなの…ずるい!
私がいっぱい色んなこと言いたかったのに…っ」
そういうと、愛は急にご飯を食べだした。
無言で。もぐもぐしてる……
なにこれ……凄く可愛いんですけど?
うさぎ…いや、りす?
いやいやいや、そうじゃなくて、なんで?
俺の謝罪……どうなった?
仕方ないから俺も食べ始める。
目の前には頬いっぱいにモグモグする小動物。
やばい…これ、今にやけちゃ駄目なやつだよな…