第23章 黄水仙(家康)
お供の人たちが、丁寧に着物を運んでいった。
秀吉さんはひとり離れに残り、今私とお茶を飲んでいる。
「あんなに喜んでくれて嬉しいなぁ…。
だからやめられないよね、この仕事」
心のそこからしみじみと出た言葉。
『お前、あんまり寝てないだろ?
くまが出来てる…』
秀吉さんが心配そうに私の頬に触れた。
「あはは大丈夫!明日からいっぱい寝るもん」
そう言う私に、秀吉さんは怪訝そうな顔をする。
『明日?今日からちゃんと寝ないのか?』
「今日は、まだちょっとやりたいことがあるから…」
家康の着物も仕上げたい。
打掛の気分転換にちょこちょこ進めてはいたけど、
仕上げるには及ばず。
『今日中じゃなきゃダメなのか?』
相変わらず心配そうな秀吉さん。
「ここにいるうちに仕上げたいんだ」
『だったらいつまでだっていてもいいぞ?
そんな急がなくても…』
「家康にはお城にいることになってるのも気になっちゃって…」
『あぁ…そういえば政宗が、家康がお前に会いたがってるようだって言ってたな』
衝撃的な言葉だった。
「え?家康が?」
家康が会いたがってるなんてあるのかな?
まぁ…そうだったら飛び跳ねるくらい嬉しいけど…
「それは…ないんじゃない?」
きっと私の顔は苦笑いだろうな。
『なんでそう思うんだ?』
なんで……かぁ…
「うーん、だっていつも私から会いに行ってたし、
それをやめたら何日も家康に合わなかったし…」
『なんで行くのをやめたんだ?』
「なんとなく、そういうの嫌いかなーって思ったから…
それに、会いにいくきっかけも見つけられなくて…」
『お前たち、好き同士だろ?違うのか?』
ドキっとした。
私は…好きだよ。大好き…。でも…家康は、どうなんだろ…
「好き…同士かは自信ない…えへへ…」
なんとなく笑って誤魔化した。誤魔化せてないだろうけど。
『はぁ…全く、、家康はお前の事好きでたまらないと思うけどな?』
うそ……だって……
『そうじゃなかったら、会議より早く城に行ったり、
帰りが異常に不機嫌だったりしてないと思うぞ』
「えええっ?」
『お前はちゃんとあいつの天邪鬼わかってると思ってたけどなぁ』
違うのか?という顔を秀吉さんがした。