第23章 黄水仙(家康)
しばらく城に寝泊まりする。
そう聞いたのは、今朝のこと。
自分の思考に居ても立っても居られず、
女中に愛の予定を聞いた。
『あら、お聞きになってませんか?
なんでも、お仕立てが忙しくなるのでお城にしばらく籠られるそうですよ』
聞いてないし。
てゆか、籠るなら別にこっちでもいいんじゃないの?
俺は朝から苛々した。
「あぁ…そうか。いつからだっけ」
まるで知ってたかのように返すのが精一杯だった。
『昨日からですよ。一式お持ちになられて…』
一式?荷物持ってったっていうの?
どういうことだよ…
「じゃあ後で城で話すよ」
そういうと女中は笑顔でその場を去っていった。
まぁ…おおごとじゃないのはなんとなく…
仲のいい女中たちがあんな感じじゃ、戻ってこないってわけじゃないだろうし。
でも、なんで俺に言わないの?
後で城で文句のひとつも言わないと気が済まないから。
そんな思いを抱えて安土城に出向いたけど、
結局愛には会えなかった。
こっちの会議と向こうの時間が合わなかったみたい。
城の愛の部屋には道具だけで誰も居なかったんだ。
念のため針子部屋にもいったけど、今日は来てないって言われた。
城の中をウロウロしてたら、会いたくない人には会ってしまう。
もう、ほんとついてない…
『よぉ家康。愛に会えなかったみたいだな』
いつものように顔をニヤつかせて、俺の心を読んでくる。
「別に会いに来てるわけじゃないですよ。さっき会議あったでしょ…」
そう不機嫌に答える俺に、政宗さんは
『だってそっち針子部屋だろ?部屋にいないからこっちに来たのかと思ったが』
腹がたつほど図星。ほんとなんなの。
何も答えないでいると、更に驚く事を言われた。
『会議より早けりゃ会えたのにな。
俺はさっきあいつに差し入れしたからな』
は?
まずなんで、政宗さんがここに愛がいる事知ってんの?
「そうですか、それは喜んだでしょうね」
嫌味のように言うと、
『そりゃあ、あんな作り甲斐のあるやつ居ないからな。
家康に愛想つかしたらいつでも俺のとこに来いって言っておいたぞ』
絶対からかって楽しんでる……
「そうですか」
それだけ言って、政宗さんとは別れた。