第23章 黄水仙(家康)
自分の部屋だろうか…。
そう思いながら俺は愛の部屋に向かう。
ピタ…
そしてその歩をピタリととめる。
行って…なんて言うんだ?
さっきはごめん…?
いや、薬草ありがとう……?
ちゃんと薬塗ったのか……
ダメだ。そのあとどう続ければいいかわからない。
俺は踵を返して自己嫌悪に陥る。
全部その場で言えばよかった。
なんで……
苛々してる俺の耳に、うんざりする声が聞こえてくる。
「よぉ、家康。なに浮かねぇ顔してるんだ?」
『家康様、何かお悩みごとでございますか。』
勝手に楽しんでるようなニヤニヤした顔と
無駄にキラキラと屈託無く微笑んでるこいつ……
「なんなんですか。変な組み合わせで俺の御殿に来ないでください」
今のは本心。
本当にこう言う時に現れるのが得意だな…
「別にお前に用はねぇよ。愛の顔でも見に来ようとしたら
道すがら三成が秀吉の用事を終えたところだって言うから連れてきた」
そういうと、政宗は意味深に笑う。
「はぁ……。勝手に連れてこないでもらえますか……」
俺が三成を避けてる事、この人絶対楽しんでるだろ…
はぁ……
今日何度目かわからないため息が出た。
「お前も今、愛のとこに向かってたんじゃないのか?
なら一緒に……」
「違います」
政宗さんの言葉を最後まで聞かずに返事をする。
「ん?なんかあったのか?」
ニヤニヤしながら聞いてくる。この人無駄にこういう勘が働くんだよな。
「何にもないですよ。勝手にどうぞ。ごゆっくり」
すこぶる嫌そうに言ったはずだ。
『家康様はお優しいですね。では久しぶりの愛様とお話して参ります』
無駄に勘が働かない三成が全力の笑顔を向けてくる。
俺は無視して、薬部屋へと戻る。
「いつでも来ていいぞ〜」
楽しそうな政宗さんの声。
っていうか、ここ俺の御殿なんだけど。
更に腹が立ってきて、強めに襖をしめた。
はぁ……何やってんだ俺は…
また自己嫌悪に苛まれながら、仕事の続きを進めた。