第23章 黄水仙(家康)
家康の御殿は広い。
最初の頃は何処にいても同じ場所に思えてしまうほどだった。
けれど、ここは仮住まいだから、誰に聞いても別に広くないという。
すごいなぁ…現代にこんな敷地に住んでる人なんているのかな?
皇居とか?ああ…でもあそこは江戸城があった場所だもんね…
そんな事をいつも考えながら、まじまじと御殿を見渡していた。
みんなは心配してくれるけど、ここは居心地がとってもいい…
いつからかそう思うようになった。
だってここには家康が居るからね…
いつからか好きになっていた。
最初の頃は冷たくされたけど、今は違う。
だって好き同士だもの。
相変わらず天邪鬼だけど、それは家康の本心じゃないから。
でもやっぱり、たまに見せる素直な時が好きだな…
一生懸命喜んでもらいたくてあれこれ考えるけど、
中々うまくいかない。
そうだ!今日は薬草の整理をするって言ってたから、
よく使うものは取りに行ってみようかな。
急に思い立って、愛は生き生きとした顔になる。
家康のためにしてあげたいことと、できることは必ずしも同じではない。
でも、これなら私にもできるし、きっと喜んでくれるよね!
…………
はぁ…
すっかりしょげてしまう。
わかってはいても、喜んでもらいたかったから…
迂闊だったな…全然気づかなかった。
はぁ……
少し赤くなった腕を見ながらため息をつく。
痛くも痒くもなかった。
いや、言われてみたらちょっとムズムズする。
でも、それすら気づかないほど、気持ちが家康で埋まっていた。
薬草も面白いほど見つかって、夢中になっていたのは確か。
気づいたら藪まできていた。
家康に来てはいけないと言われてた場所だ。
慌てて引き返したけど…うっかりしてたなぁ…
家康に呆れられただろうか。
頼まれてもいない事をして、心配だけさせてしまった。
また、あのため息をつかせてしまった……
喜んで欲しかったのに、私は何してるんだろ…
しょんぼりと自室に戻り、棚から軟膏を取り出す。
あんたはそそっかしいから、それあげる。
家康がくれた軟膏。
もう何回使ってるだろう…
ほんとダメだなぁ…。
はぁ……
軟膏を塗り込みながら、またため息をついた。