第22章 立待月に焦がれて(政宗)
「こなっちゃんがね…日吉くんのこと、好きなの…」
手元のお茶を両手で抱えながら呟く。
「あぁ、知ってる。日吉も小夏を好いてるらしいな」
そこまで知っていた政宗に驚いて、バッと政宗の顔を見た。
「見張り小屋で日吉が針のむしろだったからな」
そういうと、それが本当の意味ではなく、
冷やかされているのだとわかるように笑ってみせた。
「それで?」
促す政宗に、愛は続ける。
「日吉くんが見張り小屋に居るって知って、こなっちゃんが不安になっちゃってね?
それで、何にか安心させてあげられる事ないかな…って。
日吉くん、政宗の作ったずんだ餅が好きだったの思い出したの」
「うん」
政宗は静かに愛の話に耳を傾ける。
「だから、こなっちゃんも日吉くんのために何かできるってなったら
元気になってくれるかなって…。
日吉くんもこなっちゃんが作ったって知ったら、頑張れるかな…って」
そこまで聞くと、政宗はもう一度同じ質問を繰り返す。
「なんで、それを俺に言わなかったんだ?」
愛はまた少し迷ったような顔をする。
「言えない…か?」
愛はハッとする。
(政宗…不安そう…)
今まで感じた事もない不安そうな声だった気がする。
いつも自身たっぷりの政宗からは想像できない声だった…気がする。
不意に自分を見つめる愛に政宗は不思議そうな顔をした。
「どうした?」
声は優しい。さっきの不安な声ではない。
(でも、さっきは確かに…私のせい…?)
愛はまたゆっくり話し出す。
「言えなくないよ」
そういうと、居住まいを正し、小さく息を吐く。
「日吉くんの…」
話し始めた愛から出た名前に政宗は、
なぜか胸がギュッと掴まれるような痛みを覚えた。
(なんだ…これは…)
そのわからない痛みを悟られないように、お茶をすする。
「日吉くんの邪魔になったらやだなって…」
「邪魔…?どういう事だ?」
「日吉くん、一生懸命政宗の元で頑張ってるの知ってるから…
きっと、政宗も真剣に日吉くんの事考えてる。
だから、今危険な場所にも行かせてるだろうし…」
言葉を選んで愛が話しているのがわかる。
「そうだな。あいつは一生懸命だし、俺もちゃんとあいつを一人前にしたい」