第22章 立待月に焦がれて(政宗)
帰ってきてすぐに湯殿に連れていかれた愛は
ようやく部屋に戻ってこれた。
「あれ…?」
部屋の襖を開けて、すぐに飛び込んできたのは
机の上に置かれた、お重の風呂敷だった。
近寄って手にとってみれば、結び目は自分のものではなく、
やたらとクシャクシャとよれている。
「ここに置いてなかったし…なんでこんな…」
愛はその風呂敷を開けて中を確認する。
「えっ…」
確かに綺麗に並べてつめたずんだ餅は、見る姿もなくにぐちゃぐちゃに偏っていた。
呆然と見つめるしかできなかった愛の元に、
大きな忙しない足音が近づいてきた。
しゃっ
勢いよく襖を開けられ、ハッとして振り返る。
『どこにいたんだお前!』
「ひ、秀吉さん…?!」
『秀吉さんじゃない!こんな暗くなるまでどこに行ってたんだ!」
見るからに眉間にしわを寄せて怒っている秀吉に呆気にとられつつも
どうにか絞り出すように声を出した。
「ご、ごめんなさい…心配かけて…」
想像よりもずっと申し訳なさそうな声の謝罪の言葉に
秀吉も少し冷静さを取り戻す。
『まぁ…無事ならなによりだが…ん?それは…』
愛が手にしているお重に目をやり、秀吉は初めて中身を目にした。
『なんだ…それ、餅が入ってたのか』
ゆっくりと愛に近づき、中を覗き込む。
『それ、お前が作ったのか?』
「うん…でも、ここに置いてなかったし、なんかグチャグチャ…」
はぁ…
秀吉はまた大きなため息を漏らす。
『あいつ、食いもんもって走り回ってたのか…』
「え?走り回ってた?」
愛は驚いて目を丸くする。
『あぁ、俺たちがここに来る前、政宗がお前を一人で探してたんだよ。
その時に、それを大事そうに懐に入れて探し回ってた』
「これ…を?」
あまりの衝撃に言葉が続かない。
『お前が作ったから持ち歩いてたんだろ?』
「そう…なのかな?でも私、家出る前に政宗に見せてなかったし、
見えるところには置いてなかったはずなのに…」
その時、襖の外から、夕餉をどうするか聞きにきた女中が声をかける。
『失礼します…あら、それ…』
「これ何か知ってますか?」
『きっと愛様が作られたものだと政宗様にお話したんですよ…』