第22章 立待月に焦がれて(政宗)
「ふぅ〜、あんまり降らないうちでよかったねー!」
まだ用があると言う幸村をおいて
愛と佐助が庵に着く頃、外は雨が降りだしていた。
『雷鳴とはかなり酷くなるかもしれないな』
佐助が表情を崩さずに呟く。
「ねえ…佐助くん…」
少し不安そうに佐助を見る愛に
佐助はふっと表情を緩める。
『大丈夫。もうどんなに雷鳴が鳴ろうと、
現代に連れ戻される心配はない、安心してくれ』
「え?なんでわかったの?」
言おうとしていたことを見透かされ驚きを隠せなかった。
『どれだけ君のこと見てきたと思ってるの?
愛さんの心配事なんてすぐわかる』
「そっか…すごいね、佐助くんは…」
『政宗さんと、なんかあった?』
気まずそうに俯いてしまう愛の手を
佐助がそっと持ち上げる。
「あ…ちょっと捻っちゃって…」
言い淀む愛の手首をもつ。
『ちょっと待ってて、俺特製の湿布してあげるよ。
痛んだら、縫い物できないでしょ』
そう言うと手早く処置をして包帯を巻いた。
「ありがとう…」
処置を終えた佐助は少し硬い表情で口を開く。
『後悔…してない?』
「え…?」
『もし…後悔してるなら、せめて俺たちの側に…』
包帯を巻いた手を見つめる佐助に、
愛は、ゆっくり佐助の手を取った。
「まさか…やっとの思いで戻って来たんだもん…。
後悔なんてするわけない。私は…政宗のことが…」
ー大好きで…ー
そう言おうとした愛の目からは
大粒の涙が次々に溢れる。
(そうだよ…大好きなのに…なんであんな…)
『ふっ…どうやら、悲しいとか辛いとかの涙じゃなさそうだな』
「えっ…?」
『人は大切な言葉を口にする時に
想いが大きければ大きいほど涙を零す。
そして用意していたその気持ちが上手く伝えられなかった時も。
それは科学的にみてもなんら不思議はない。
感情に一番左右される生理現象だから』
「大切な言葉…」
それはまぎれもない事実だ。
だって今日は、一番大好きな人に、一番大切な感謝を伝えたかった。
あの時政宗の前でこぼした涙は、決して悲しみや怒りではない。
「大好きが伝えられなくて…悔しかったんだ…」