第22章 立待月に焦がれて(政宗)
着替えに部屋を変えた政宗は
一着の着物を手に取る。
(いつぶりだろうな、自分で着物を選ぶのは…)
この御殿に愛を迎えてからというもの、
その日着る着物は全て愛が用意してくれていた。
「ふっ…」
適当に手に取ったその着物は、政宗のために縫ったものだ。
ふと、隣の着物にも手を伸ばす。
そこに並んだ着物は、今となっては殆どが愛が縫ったものだった。
「俺らしくなかったな…」
普段の自信に満ちた政宗なら、決して愛を疑ったりしなかっただろう。
なぜあんな事をしてしまったのか、さっきまでわからなかったモヤモヤは
今ならはっきりわかる。
「全く…この伊達政宗に嫉妬させるとはな…」
まるで自分自身を嘲笑うかのようにそう呟くと、
手早く着物を整え、家康たちが待つ部屋に戻る。
「待たせたな」
襖を開けると、先程とは違う緊張を部屋が包んでいた。
『お、来たか政宗』
秀吉が緊張感を含んだ声を出した。
「どうした」
全員を見渡すように政宗が言う。
『政宗様…光秀様が…』
三成の言葉を遮るように家康が口を挟む。
『安土に上杉のやつらが潜伏してるらしいですよ。
もしかして、愛が捕まってるんじゃないかって…』
「上杉が?光秀の情報か」
政宗の目が鋭さを放つ。
『あぁ、間違いない』
光秀は表情を変えず淡々と答えた。
『早いとこ探さないと…上杉のところじゃなかったとしても
こんな時間まで見つからないのは流石に不味いんじゃないですかね』
そう言った家康の言葉を一際大きな雷鳴がかき消した。