第22章 立待月に焦がれて(政宗)
「降ってきたな…」
左ノ吉が言うように、ポツポツと雨が降り出した。
政宗は持っている包みが濡れないように懐に差し入れた。
「愛…どこにいる…」
急ぎ足で御殿へと向かう。
その途中でふと先ほどの愛の様子を思い出していた。
何も知らなかったとはいえ、痛がるほどに手首を掴んだ事を思い出すと胸が軋んだ。
「手、痛めたか…。悪いことしたな…」
急ぎ足で御殿の門をくぐった。
『政宗さま!』
濡れながら帰ってきた政宗を女中が迎えた。
「降られちまったな…雷まで鳴り出した」
女中は手ぬぐいを渡しながら、
『奥で家康様たちがお待ちです』
と告げた。
「家康たち?が」
『はい…あの…愛様は…』
女中が不安そうな声で訊いた。
「まだ…戻ってないのか…」
呟きながら自室で待つと言う家康の元へ急いだ。
シャっ…
襖を開ければ、そこには武将の面々が顔を揃えている。
『あ、政宗さん…その顔じゃあ…まだ見つかってないんですね』
家康が真っ先に声を出す。
『愛が居なくなったって…どういうことなんだ』
秀吉が顔を顰める。
『雷鳴ですね…もう降り出してるようですし…城下を探しに行った方が…』
三成が言えば、
『馬鹿なの?政宗さんが散々探して帰ってきたところだろ』
不機嫌そうに家康が言う。
『その様子だと、あの小娘が行きそうな場所は全部回ったようだな』
光秀が静かに口を開いた。
『とりあえず政宗は着替えてきたらどうだ。風邪ひくぞ』
秀吉に言われ
「あぁ…」と着替えるために懐から包みを取り出し文机に置いた。
『なんです?これ…』
家康が不思議そうに包みを見つめる。
「それは、愛が…」
『お前…まさか…あいつと喧嘩でもしたのか』
秀吉の顔がさらに訝しげに歪む。
『おおかた図星だな』
光秀は口端を上げながら言う。
『とりあえず、さっさと着替えてきてくださいよ。
面倒なこと増やさないで下さい』
家康はため息混じりで言うと
政宗は着替えに部屋を出る。
『でも、もう真っ暗ですし、ここまで愛様が見つからないのは心配ですね…』
三成は雨が強くなった外を見て呟いた。