第22章 立待月に焦がれて(政宗)
『政宗さま、失礼致します』
まさか愛がこのような反応をするとは思わなかった政宗は
まだ部屋で少し呆然としていたが、女中の声に我にかえる。
「あ…あぁなんだ」
出来るだけ平静を装い招き入れる。
『夕餉の準備が整いましたので…あら?
愛様はご一緒ではないのですか?』
台所で楽しそうにずんだ餅を作っていた愛を知っている女中は
不思議そうに首をかしげる。
そこへ、表まで愛を追いかけた女中が慌てて部屋に飛び込んできた。
『失礼しますっ。政宗さま、愛様が…』
『あら、愛様はいらっしゃらないようで…』
『えぇ、今しがた勢いよく御殿を飛び出されて…』
『何があったんですか?あんなに政宗さまがお帰りになるのを心待ちにしていたのに…』
「心待ちに…?」
二人の女中のやりとりを黙って聞いていた政宗が口を挟む。
『えぇ、政宗さまのために楽しそうにお餅を作られていましたけど…
召し上がってないのですか?』
「どう言う事だ!」
急に声を荒げた政宗に驚きながらも、
『政宗さまがお教えになった、ずんだ餅を一生懸命作られてましたよ?』
『毎日、政宗さまがお出かけになられてから、ずっと練習なさってましたからねぇ』
「毎日、あいつが?」
(それは日吉のために…)
『えぇ、お針子の子に教えてあげるんだって…。
でもうまくいったみたいですね?今日は間違いなく政宗にお作りになって
ずっと政宗さまがお帰りになるのを、夕刻前から玄関先でお待ちに…』
『あ、きっとこちらですよ!
この風呂敷の刺繍、わたくし見せて頂きましたから…』
そう言うと、女中は部屋の片隅に置かれた包みを手に取る。
『政宗さまから頂いたお重と同じ刺繍を縫ってみたと嬉しそうに仰って…』
そういうと、包みを政宗に手渡す。
政宗が急いで風呂敷を開ければ、
そこには確かに自分が愛のために選んだお重が現れ、
蓋をあければ、綺麗な形に作られたずんだ餅が詰められていた。
(見張り小屋のとは違う…)
一目見て、昼間見たものとは違うと気づいた。
慌てて重を包み直し、勢いよく部屋から出て行く。
取り残された女中二人は、何が起こったのかさっぱりわからず、
顔を見合わせて小首をかしげるばかりだった。