第22章 立待月に焦がれて(政宗)
『愛様?そろそろ陽も暮れてきますから
お戻りになられたらいかがですか?』
玄関先でソワソワしている愛に女中が笑顔で声をかける。
「えっ?」
その声に、はじめて自分が何度も玄関先で往復を繰り返してる事に気づく。
「あ…はは…すみません…
夕暮れには、政宗が帰ってくるかなーって…」
照れ隠しのように笑う。
『ふふ…今宵は立待月も慌てて昇るのではないですか?』
女中と他愛もない話をしていると、玄関の戸が勢いよく開いた。
「政宗っ!」
今まさに話ていた本人が突然現れて、焦ったように振り返る。
「なんだ?俺が帰ってきちゃまずかったのかよ」
そういうと、愛の手首を乱暴に掴んだ。
「い、いたっ…!」
顔を顰める愛に構わず、掴んだ手を引きづるように自室へ向かう。
「な、なに?どうしたの?痛いよ…っ」
『いいから来い!話がある』
そういうと、それから一切言葉を口にせず愛を自分の部屋に無理やり押し込めた。
バタン!
乱暴に襖を閉めると、掴んでいた手首を投げるように離す。
その勢いによろめきながら、畳に投げ出されるように座る。
「ちょっと!いきなり何するの?」
流石の愛も突然の政宗の行動には怒り心頭だった。
『お前こそ、俺に言うことがあるんじゃねぇのか』
そう言うと政宗は愛の前にドカッとあぐらをかいた。
「なんのこと?ぜっんぜんわかんない!
どうしてこんな…ひどい…ひどいよっ!」
そう言うと、悲しみではない涙が込み上げてくる。
ポロポロと溢れ出す涙を拭くこともせずに歯を食いしばった。
「お前がっ…お前が俺にやましい事があるからだろ…」
そう言いながらも、政宗は赤くなった手首と愛の涙を見て少しずつ冷静になっていく。
「やましいこと?私が政宗に?そんなの一つもない!」
さっきまでの政宗を焦がれていた気持ちが、余計に愛に悔しさを募らせる。
「もういいよ…もういい!」
そう叫び、勢いよく立ち上がり部屋を出る。
小走りに廊下を駆け抜け、草履もままならぬまま表へと出て行ってしまった。
『愛さま!』
驚いた女中は慌てて追いかけるが
もうそこに愛の姿は見当たらなかった。