第22章 立待月に焦がれて(政宗)
『失礼致します』
いつものように談笑しながら針子の仕事をしていると、
外から聞きなれない声がする。
『はい、どなたでしょう…?』
佐江が不思議そうに襖に手をかけた。
(あれ?今の声って…)
愛はする筈のない声に顔をあげた。
佐江が襖を開ければ、そこには日吉の姿があった。
「やっぱり!日吉くんどうしたの?」
愛が驚いて日吉へと歩み寄る。
『愛様のお知り合いですか?』
佐江が聞きながら自分の席に戻る。
「政宗の家臣の方で、日吉くんです」
愛が針子たちに紹介する。
『日吉さん!』
小夏も驚いて声を出す。
「こなっちゃんは御殿で会ってるもんね。
さぁ中へどうぞ、座って?」
愛が日吉を促す。
日吉は軽く一礼すると、
『政宗様からの差し入れをお持ちしました』
と、風呂敷包みを愛に手渡した。
『あら、政宗様が直接いらっしゃらないなんて珍しいですね』
千春がまじまじと日吉を見ながら言う。
『こんな爽やかな男性に託すなんて、
政宗様も思い切りましたね』
佐江が面白そうに言う。
『政宗様が向かわれていたのですが、
急遽信長様に呼ばれまして、私がお持ちしました』
日吉は女たちの目線に居た堪れない想いをしながらも
愛に説明する。
そして、しっかりと小夏にも目線を送った。
『小夏さんも、お久しぶりですね』
そう言うと照れ臭そうに笑った。
小夏はにかんだ笑顔で会釈だけ返す。
『ははぁん。そう言うことか』
千春がニヤッと笑って言う。
『若いっていいわね〜』
佐江も意味深に笑っている。
愛は、何のことかわからず周囲を見渡した。
「わざわざありがとう、日吉くん。
一緒に食べていく?」
『い、いえ、私はお渡しに来ただけなので…』
このままでは佐江や千春に見透かされてしまいそうで、
すぐに入り口へと踵を返す。
『では。失礼致しました』
そう言うと、すぐに襖を締める。
襖を締めると、部屋の中の笑い声を聴きながら日吉は深くため息をつく。
(あぁ…今日もやっぱり可愛かった!)
そうして、にやける顔をパシパシと叩きながら、
仕事へと戻っていった。