第22章 立待月に焦がれて(政宗)
それから数日、お互いを少し気にしつつも、
日吉と小夏は会わない日が続いていた。
あの日の帰り道、話をしてみれば、やはり二人は同じ城で支えていた事を知った。
小夏は、姫としてだけでなく、針子として愛を尊敬していること、
日吉は、武将として、領主としての政宗がいかに素晴らしいかということを語り合った。
そして共通して、今までの城主や姫君とは全く違うことに驚いていた。
何より同郷というだけで、他の人たちより話しやすさもあった。
『政宗様、それは何ですか?』
安土城内で政宗と出会った日吉は
政宗が持っている風呂敷に包まれた荷物を不思議そうに見ていた。
「あぁ、これか。これは愛への差し入れだ」
そう言うとニヤっと笑い、荷物を持ち上げてみせる。
『愛様にですか?』
日吉は驚いたように目を見開く。
「そんな驚くようなことないだろ?」
政宗にとって、愛への差し入れはいつもの事だ。
正確には愛だけではなく、針子のみんなで食べられるように持ってきたものだ。
『驚きますよ!政宗様は本当に愛様がお好きなのですね』
「好きなんじゃない。愛してるんだ」
そうサラッと言ってのける政宗に驚きながらも、
針子部屋へ行けば小夏もいる事に気づく。
『政宗様、失礼致します』
ふいに廊下の後ろから声をかけられる。
「あぁ、秀吉のとこの者か。どうした」
『はい。信長様と秀吉様が、急ぎ政宗様をお呼びする様にと』
今正に愛に会いに行こうとしてた政宗は顔を顰める。
「間が悪いな…」
そう言う政宗に、日吉はパッと顔を輝かせる。
『政宗様、愛様には私がお届け致しましょう!』
そう申し出る日吉に、
「なんだお前、やけに嬉しそうじゃねぇか」
政宗は少し不機嫌そうに言う。
『いえ…その…折角の差し入れですから…』
「わかった。お前に任せる。
たーだーし。愛に手出すなよ」
見上げた政宗の顔が真顔な事に驚きながらも、
『そんな!滅相もございません』
日吉は慌てて頭を振るのだった。