第22章 立待月に焦がれて(政宗)
小夏は足取りも軽く、政宗の御殿を後にする。
(愛様は本当に素敵な方だなぁ…)
先程までの事を思うと、つい顔が綻んでしまう。
歯切れと刺繍糸を取り出した愛は、
西洋刺繍の基本を小夏に丁寧に教えてくれた。
まだまだ慣れない小夏にも、わかりやすく時間をかけて。
そして、時間のある時はこうして愛の部屋で刺繍を教えてくれると言う。
手にした包みを大事そうに抱えて家路を急いでいた。
すると、前から知った顔が歩いてくるのが見える。
(あ、日吉さん?て言ったっけ…)
政宗が連れて来たという同郷の武士。
小夏の中ではその程度の認識しかない。
(無視したら悪いよね…)
『あ、あの!日吉さん』
通りの反対側から小夏は日吉に声をかける。
日吉は突然どこからか名前を呼ばれる、キョロキョロと辺りを見渡した。
そんな日吉に駆け寄ると、小夏は今度は軽く頭を下げる。
『こ、小夏さん…』
日吉はびっくりして固まってしまう。
何故なら、今正に日吉は先程会ったばかりの小夏の事を考えていたから…。
『日吉さん、同郷なんですね!
またお会いするかもですから、宜しくお願いします』
御殿で会った時には緊張していた小夏が、今は城下という事もあってか、
自然に柔らかく笑いかけてくる。
『こちらこそ!
そうですか、あなたも同じ故郷なんですね…
よ、宜しくお願いします!』
日吉は、小夏の笑顔から目が離せずにいた。
(か、可愛い…可愛いすぎる!)
そう。あの時廊下で日吉が固まった理由。
それは完全に一目惚れだったのだ。
『日吉さん?』
焦っているような日吉を不思議そうに小夏が見ている。
『あ、すみません…。これからお帰りですか?』
『はい。愛様に良くして頂いてすっかり長居してしまいました』
少し照れるように笑う小夏に日吉のときめきは止まらない。
『もうじき日も暮れますから、お送りしましょう』
『でも…お仕事中では?』
『いえ、私も今政宗様の御殿に帰るだけですから…』
『そ、そうですか…』
(日吉さん、良く見たら爽やかで、とても良い人そうだし…かっこいいかも…)
小夏もその申し出に悪い気はしなかった。
『では、お言葉に甘えさせて頂きます』
そうはにかんで答えるのだった。