第22章 立待月に焦がれて(政宗)
『愛様、お帰りなさいませ。
あら、可愛いお客様ですね、どうぞお上り下さい』
笑顔で女中が出迎えると、小夏は慌てて頭を下げる。
『は、はい、お邪魔します』
小夏の様子に女中はクスリと笑みをこぼす。
『ゆっくりしていらして下さいね。
愛様、お茶をお持ちしますか?』
「いえ、大丈夫です。私がやりますよ」
『かしこまりました、それでは失礼します』
そう言うと愛に会釈をして去って行く。
「さ、こなっちゃん、こっちだよ」
促されるまま小夏はついて行く。
『愛様は、いつもご自分でお茶の用意をされるんですか?』
「え?うん。たてるわけでもないから…
お部屋で淹れられるようにしてもらってるからね」
何もかもが驚きの連続で、小夏は目を丸くする。
『愛様は…凄いですね!
本当に尊敬します!』
あまりにも小夏に尊敬の眼差しを向けられて、
むず痒くなってしまう。
「も、もう…普通のことだよ」
愛は落ち着かない気持ちで自室へと向かっていった。
もうすぐで部屋につくという頃、廊下で日吉と出くわした。
『愛様!
お戻りになられたのですね、お帰りなさいませ』
「ただいま、日吉くん。今日はお城じゃなかったっけ?」
『はい。今政宗様にお使いを頼まれまして、すぐに戻るところです。
そちらは…』
日吉の目が小夏に向かう。
『あ、こ、小夏と申します』
小夏は日吉に向かって深くお辞儀をする。
『あ、頭上げて下さい、私ごときに愛様のお連れ様がそんな…』
日吉は慌てて小夏に声をかけた。
恐る恐る顔を上げる小夏の顔を見た日吉は、目が離せなくなった。
「日吉くん?どうしたの?」
愛は固まっている日吉に不思議そうに声をかける。
「あ、もしかして知り合いとか?」
『いえ…存じ上げません。失礼致しました』
すっかり我に帰り恐縮しきる日吉に、愛と小夏は顔を見合わせる。
「じゃあ、政宗に宜しくね。
気をつけて戻るんだよ?」
『はいっ…!失礼致します』
慌てて小走りに立ち去る日吉。
「日吉くん、どうしたのかな?」
愛は呟きながら、今度こそ自室へと小夏を招き入れた。