第22章 立待月に焦がれて(政宗)
「失礼します」
声をかけながら政宗の仕事部屋を開ければ、日吉が真剣な表情で書簡の整理をしていた。
『あ、愛様!お帰りなさいませ。
政宗様は…』
慌てて姿勢を正す日吉に、クスリと一つ笑みをこぼすと、
「政宗の所にはもう行ってきたよ。
はい、これ政宗からの差し入れ。お茶淹れますから一緒に頂きましょう」
そう言って日吉の前に差し出す。
『え?これは…』
「日吉さん、好物なんでしょ?
政宗のずんだ餅、とっても美味しいから、ほっぺが落ちちゃうよ」
そう言いながら、とっても幸せそうに笑いかけられて、
日吉は頬をほのかに赧らめた。
(政宗様が愛様を独り占めしたい気持ちがよくわかります…)
愛を見つめたまま、動かなくなってしまった日吉に、
「どうしたの?日吉さん?」
と声をかける。
『あ、いえ、なんでも…
私のことは、日吉、で結構です。さん付けなんて畏れ多いです…』
そう言いながらも、日吉は愛の顔がまともに見れず
つい目をそらしてしまう。
「そう言われても…じゃあ…私よりも歳下っぽいし、
日吉くん?でいいかな?」
『は、はい…でも、なんかくすぐったいですね』
漸く日吉が顔を上げてはにかむように笑う。
(ふふっ。なんだか弟ができたみたいで、可愛いな…)
「じゃあ、お茶淹れてくるね」
そう言いながら立ち上がろうとすると、
『あ、愛様、私が淹れて参ります』
日吉が愛を止める。
「いいからいいから。お仕事してたんでしょ?
そこで待ってて」
笑顔でそう言い残し、愛が部屋を出て行く。
『愛様は姫さまなのに、こんなに気さくで…
まるで大違いだな…』
日吉は小さく呟きながら、今までの自分のいた城主の姫を思い出し、
驚きを隠せないで居た。