第22章 立待月に焦がれて(政宗)
『愛様、今日昼過ぎにはお城の作業は終わってしまいそうですね』
佐江が出来上がった着物を畳みながら話しかける。
「そうですね。私もこの刺繍が終われば今日はもう注文分もありません」
手元で丁寧に刺繍を施している着物を見ながら愛も答えた。
『愛様は、皆さんと別のものを作られているのですか?』
小夏が一人別のものを仕上げている愛に話しかけた。
『愛様は、忙しいときはお城の仕事を手伝ってくださいますが、
普段はご自分の注文分を作られているのですよ。
愛様は安土中から仕立ての注文が入りますからね』
千春がまるで自分のことのように自慢げに小夏に説明をする。
『へぇ!そうなんですね!素敵です!!
今度、私にもその刺繍の仕方を教えていただけますか?』
小夏はキラキラと瞳を輝かせながら愛にお願いをする。
「もちろんいいですよ!
こなっちゃんは、お針子の仕事が好きなの?」
『はい。小さいときに縫い方を祖母に教えてもらってから、
誰かのために着物を縫うのがとても大好きなんです。
初めて祖母に浴衣を縫ったときに、とても喜んでくれて...』
屈託のない笑顔で話す小夏が、自分と同じ気持ちで着物を仕立てていると知って、
愛はとても嬉しくなった。
「私も、自分の着物を着てくれた人が笑顔になるのが大好きなの。一緒にがんばろうね」
『はい!』
二人のやりとりを、千春と佐江は微笑ましくみながら笑いあった。
「そうだ、こなっちゃんは安土に来て日が浅いでしょ?
明日、城下に一緒に行ってみない?
安土には良質な生地やさんも沢山あるから、巡ってみると楽しいよ」
『え、でも、、、姫様にそんなこと、、、』
突然の誘いに、驚いている小夏に千春が言う。
『私たちも、時々愛様と城下におでかけして、
お茶したりするのよ。せっかくだから行っておいで』
『はぁ...こんなことってあるんですね...
嬉しすぎて、何て言ったらいいのか...』
「もう、こなっちゃん大げさだよ。そんな緊張しないで、ね?」
愛が優しく笑いかければ、小夏は元気な声で
『はい!よろしくお願いします!』
と答える。
今日も安土城の針子部屋からは和やかな笑い声が響くのだった。