第22章 立待月に焦がれて(政宗)
そのころ、政宗の御殿では、日吉が政宗から色々と説明を受けていた。
『政宗様、今日は直々のご案内いただきまして、
本当にありがとうございます』
「誰かに任せるより、頭に入るだろうからな。
お前は頭が切れる。頼りにしてるぞ?」
そう言いながら、自らが淹れたお茶を出す。
『はっ。私の出来る限りの事をさせて頂きます。
政宗様にお茶を淹れて頂ける日が来るとは…
戦には負けた身でありながら、恐れ多い事で御座います』
日吉は恐縮しきって頭を下げる。
「まぁそう硬くなるな。
しかし、あの領主は今思い出しても反吐が出る。
自分達の私利私欲ばかりに目が眩んで、民の事なんか全く考えていなかった」
政宗は珍しく怒りをあらわにした。
「まさか、奥州の近隣をあんな奴が治めていたとはな」
お茶を一口すすると、ため息混じりに言う。
『私は、小さな頃から父親には立派な武士になる様にと
厳しく育てられて参りましたが、正直、何が正しい事なのかを見失うところでした。
政宗様のような方に治めて頂けて、民達もですが、私達も救われる思いです』
日吉は一気にまくし立てると、キラキラと輝くような眼で政宗を見つめた。
「俺が治めるからには、どんな奴も食うに困る事のない国にする。
奥州に戻るときにはお前も青葉城まで連れて行くが、いずれは故郷に戻すつもりだ」
『いえ、私は政宗様にいつまでもついて行きたいのです!』
「有り難い話だが、俺は、いつかお前があの国を治められればいいと思ってる」
『わ、私がですか?!』
「あり得ない話じゃないだろ?お前が俺の右腕と呼べるくらいになれば、
問題ない話だからな」
日吉はあまりの事に言葉も出ないほど驚いている。
「今日明日の話じゃねぇ。しっかり色んな事を覚えて、
まずは人の上に立つ器になっていかないとな。
お前なら無理な話じゃないと思ってる」
そういうと、政宗は固まっている日吉の肩をパンパンと叩く。
「あとはそうだな…俺みたいに、良い伴侶を、見つけねぇとだな」
『愛様のような素晴らしい方、そうそういらっしゃらないのでは…』
その通りだ。
そう思うながらも、一瞬しか話していない愛の事を素晴らしいと言われると、
なぜか、胸がざわつく様な気持ちになる。
(まぁ、考えすぎか…)