第22章 立待月に焦がれて(政宗)
『今は戦も暫くなさそうだし、急ぎのものもないから、
いまのうちにゆっくり慣れていけばいいのよ』
小夏に針小部屋の事を説明している千春が言うと、
『そうね、なんだかこなっちゃんが来てくれると、
ますます針小部屋が賑やかになりそうで嬉しいわ』
針小部屋では一番年上の佐江も、皆んなのお茶を出しながら顔を綻ばせて言う。
「ね?みんな良い人ばっかりでしょ?
忙しい時は力を合わせて乗り越えるし、
普段はこんな感じで和気藹々と過ごしてるから」
愛の言葉に、すっかり緊張もほぐれた小夏が頷く。
『はい。ここでは毎日が楽しくお仕事できそうですね。
前にいた針小部屋とは雰囲気が違いすぎて、びっくりしちゃいました』
「前もお城に勤めていたの?」
愛の質問に、小夏の顔が微かに曇る。
『はい…。つい最近、戦で負けてしまう前は、別のお城で針子をしていました』
「そっか…ごめんね。無理に話さなくても良いからね」
愛は小夏の顔を覗き込みながら言う。
『いえ…、私のいた国は、負けて当たり前です。
戦だ戦だと、農民からは年貢をありったけかき集めて、
払えなくなれば、女子供は人質のように城の仕事をさせられ、
農民の男達は、無理やり戦に行かされました』
小夏の顔には、悲しみよりも怒りが見える。
『お城で針子をさせられてみれば、城の中では城主を筆頭に、
姫様も奥方さまも、みんな贅沢三昧でした。戦のために集められたのに、
作らされるのは、豪華な女性の着物ばかり。
少しでも納期が遅れれば、すぐに怒鳴り込まれました』
「そんな…ひどい…」
『だから、負けて良かったんです!
新しい領主様は、とても素晴らしい方で、疲弊した民達のために
食料から分け与えて下さいました。おかげで私の家も、
また農家を出来るようになりましたし、
私も晴れてこちらに奉公させてもらえるようになりました!』
『こなっちゃん、頑張ってきたのね』
笑顔で顔を上げる小夏に、佐江が話しかける。
「こなっちゃんの国はこの近くだったの?
最近近くで戦はなかったと思うけど…」
愛が不思議そうに言うと、
『奥州の少し西側にあります』
と、小夏はいたずらっ子のような笑みを見せた。