第22章 立待月に焦がれて(政宗)
『愛様、失礼します』
針小部屋での仕事を進めていると、お城の女中から声がかかる。
「はい、どうしましたか?」
愛が返事をすると、針子の一人が襖を開けた。
『お仕事中、失礼致します。
本日より、こちらの小夏がご一緒にお針子をさせて頂く事になりましたので、
ご挨拶をさせて頂きます』
小夏と紹介されたのは、自分よりも少し若いだろうか、
派手ではないが、とても可愛らしい女の子だった。
『ほ、本日より、安土城でお世話になります、小夏と申します。
お、織田の姫様もお仕事をされていると聞きました。
わからない事ばかりですが、宜しくお願いいたします』
緊張しているのが見るからにわかるくらいガチガチになった小夏が、
挨拶を終えると深々と畳に頭を下げた。
「小夏さん、顔を上げてください」
愛が優しく声をかけると、恐る恐る小夏が顔をあげる。
「姫様なんて、やめて下さい。みんな友達の様に仲良くしてもらってるんです。
小夏さんも、これから一緒に宜しくお願いしますね」
『え…でも…』
まだ緊張を解けない小夏に、周りの針子達も声をかける。
『こなっちゃん、大丈夫よ。愛様はとっても優しくて、
私達とも気さくに話してくださるし、素晴らしい技術もお持ちなの。
そんなに緊張しないで?さぁ、こちらにどうぞ』
そう促すと、おずおずと部屋の中に入ってくる。
「こなっちゃんって可愛い呼び方ですね。
私も、そう呼んでいいかな?」
友達のように話しかける愛に、漸く小夏は身体の力を抜く。
『姫様にこんなに優しくして頂けるなんて…ありがとうございます!』
漸く笑顔を見せた小夏に、愛も針子達もホッと息を吐く。
「それと、私の事は姫様はやめてね。みんな名前で呼んでくれるから。
針小部屋の事やお城の事でわからない事は、誰にでも聞いて大丈夫だよ」
『は、はい…では…愛様、改めて宜しくお願いします!』
(また針小部屋が一段と明るくなったみたい。早く慣れてくれるといいな)
『では、愛様、皆さま、宜しくお願い致します』
そういうと、小夏を連れてきた女中が去って行った。