第22章 立待月に焦がれて(政宗)
「あ、政宗、私そろそろお城に向かうね。あれ?お客さん?」
愛は安土城の針小部屋へ出かけるため、
御殿の玄関へと廊下を歩いていた。
前から歩いてくる政宗の後ろには、初めて見る男性を連れている。
『あぁ。気をつけて行ってこいよ。
こいつは、今日から俺の元で働くことになった日吉(ひよし)だ。
夕餉の時に改めて紹介する』
そう言いながら、日吉と紹介された男性に目を向けた。
『こちらが愛様でいらっしゃいますか?
はじめまして。日吉と申します。政宗様の仰られた通りの
お美しい姫様でございますね』
屈託のない笑顔は、自分よりも歳下なのかと思わせる。
「もう、政宗、変な紹介しないでよ!
ゆっくり挨拶できなくてごめんなさい。愛です。
夕刻には戻りますから、また改めてお話させて下さいね」
『なんだよ。間違った紹介はしてないぞ?
日吉、愛が可愛いからって手だすなよ』
思いの外、真面目な顔で日吉に注意する政宗に、
『そ、そんな滅相もありませんよ。
政宗様の大切な姫君にそのような事は…』
「ほら、日吉さん困ってるじゃない…。
気にしないで、仲良くして下さいね」
愛が軽く笑いかけてその場を去ろうとすると、
政宗に急に手首を掴まれる。
「わぁ!」
急に引き寄せられ、チュっと軽く口付けられる。
「な、な、何してるの?!」
『あぁ、悪いな。お前が俺のものだって事、
こいつにもわからせておかないとな』
真っ赤な愛をよそに、いつもの余裕な表情で笑いながら政宗が言う。
ふと、日吉を見れば、突然のことに頬を真っ赤に染めていた。
「もぉ!人前でこういう事しないでよ」
『悪かったな。じゃあ続きは誰も見てない時にな。
早く行かないと遅れるぞ』
肩を揺らしながら笑う政宗に、頬を膨らませたまま愛は玄関に向かう。
『ま、政宗様…愛様は怒っているようでしたがよろしいのですか?』
『ん。大丈夫だ。まぁわかっただろ?
あいつは可愛い俺の姫君だ。手出すなよ』
そういうと、日吉の肩をポンと叩き歩き始めた。
(もう、政宗ってば、初めて逢う人の前で…
でも、嬉しいって思っちゃう自分が悔しい!!)
愛も口元を緩ませて城へと向かうのだった。