第3章 彼と私の秘密の言葉(三成)
三成は、完全に書庫に行くタイミングを逃していた。
早々に自分の仕事にひと段落をつけ、
約束した書庫の片付けの手伝いに向かったのだが其処には、先客がいた。
(この声は…秀吉様…)
三成の脳裏には、今朝の、
秀吉が、泣いている愛を抱きしめていた光景が鮮明に思い出された。
また、ふつふつと【嫉妬】という感情が湧き上がる。
三成は外側からそっと聞き耳をたてた。
(愛様は食欲が無いのですね…。
どこかお身体が悪いのでしょうか…。)
自分が直接聞けないのがもどかしい。
いや、堂々と入っていけばいい事なのだが、
一旦躊躇してしまうと、なぜか足が止まってしまった。
(秀吉様が一緒なら…大丈夫ですかね…)
このまま二人にして置くのも、なんだか居た堪れなかったが、
かと言って、どのような顔で秀吉と会えばいいかもわからなかった。
(落ち着いて出直しましょう…)
二回目に書庫を訪れると、中からは楽しげな声が聞こえていた。
(政宗さんの声もしますね…)
『例え愛の唇でも欲しいと思ったら奪う』
そう言って自分の唇を拭った政宗の姿を思い出す。
またもや、外側から聞き耳を立てることになってしまった。
(愛様…。
疲れさせる事をお願いしてしまって
申し訳ない事をしました。今日は早く帰られるでしょうか…)
暫く声だけを聞いていた三成は、
そうっと戸を開けて中を覗いて見る事にした。
そのまま中に入ってもいいとも思っていた。
中が覗けるほど開けた時に見えたものは、
秀吉に頬をさすられ、政宗に頭を撫でられながら、
大好きな笑顔を見せる愛の姿。
「ぐっ……」
自分でも聞いたことにないような声が、自分の喉の奥から聞こえた。
ハッとして、戸を閉め踵を返す。