第21章 月と金星 (秀吉)
オマケ2
『今回は、公私ともに上杉には世話になったな…』
帰りの馬上、愛を前に乗せた秀吉が呟く。
「え?公私ともに?」
愛がびっくりして振り返ると、
秀吉は無理やり愛の顔を前に向かせる。
『ほーら。体勢崩すと危ないだろ?
ちゃんと前むいておけ』
「秀吉さんの顔が見れなくて寂しいな…」
わざと膨れたふりをすれば、
『そんなに可愛い事言ってると、帰ったら容赦しないからな?」
そう言いながら、今度は自分の方に顔を向けさせて口付けをした。
「んんっ…ん…」
馬上とは思えないほど甘く深い口づけに、
愛は慌てて秀吉の胸を押し返す。
「も、もう、大勢崩したら危ないよ?」
『そうか?これでも抑えてるんだぞ?』
その時、政宗の馬が近づいてくる。
『おい、お取り込み中のところ悪いが、
秀吉に一番大切なことを伝え忘れてた』
そう言うと、ニヤリと笑みを漏らす。
「え?なんかあったっけ?」
『なんだ?勿体ぶらず早く言え』
『愛は、此処へ来る前に正式に信長様の養女となった。
なので、秀吉は帰ったらまず、天主へ行き、愛の父上に婚姻の許可を得るように』
それだけ伝えると、笑いを堪えるように
政宗は一気に馬の速度を加速させた。
「信長様がお父さん…実感がないなぁ…」
呑気に言う愛に対して、秀吉は緊張に身を震わせた。
「秀吉さん?」
『なんだ…』
「父上は、秀吉様に怒っていらっしゃいました…。
婚姻の許しは頂けるでしょうか…」
愛は大袈裟にため息をつき、悲しい声を出す。
『な…っ…。おまえなんだその喋り方は…。
いや、いくら信長様が反対されても、こればかりは譲れねぇ。
命に代えてでも…』
「ちょ、ちょっと秀吉さん、命には代えないで?
私、妻になる前に一人になっちゃう!」
『愛、良かったな!生まれ変わらなくても、
俺と夫婦になれるぞ〜』
少し離れた場所から政宗の笑い声は響く。
『こら待てー!政宗!冗談でも許さんぞ!』
「きゃぁ!」
愛は、行きも帰りも、今までで一番速い早駆けを経験したのだった。
オマケ2 終