第21章 月と金星 (秀吉)
オマケ3
「信長様…。この秀吉、愛姫を正室として迎えたい所存にございます」
今度は真っ直ぐ前を見つめ、しっかりとした声で伝える。
『そうか…愛、いるか』
襖越しに声をかければ、
「はい。ただ今」
と声がして襖が開いた。
そこには、普段の着物とは違い、すっかり姫に姿を変えた愛の姿があった。
「父上、いかがなさいましたか?」
信長に、少し懲らしめてやると聞かされていた愛は、
事前に申し合わせたように振舞っていた。
『あぁ、秀吉がお前を正室に迎えたいと挨拶にきている』
「まぁ!父上、いかが致しましょう…」
愛は楽しそうに、大げさに困った風な仕草をする。
「お、おい…」
ただ一人、二人のやりとりについていけない秀吉が、あたふたとし出した時…
『ちょーっとまった!』
大きな声とともに、襖が勢いよく開いた。
「政宗!お前、信長様の御前だぞ!何をしている」
秀吉は、いきなり乱入してきた政宗を厳しい顔で咎めた。
『政宗どうした』
信長はピクりともせずに、面白そうに政宗を見た。
『信長様、ぜひ愛姫はこの伊達政宗の正室に迎えたい』
そう言うと、秀吉の隣にどかっと腰を下ろした。
『信長様、失礼致します』
秀吉はその声に勢いよく襖を振り返る。
『光秀か。どうした』
政宗に続き、光秀が信長の前に腰を下ろした。
『この度は、信長様のご養女の…』
「おい、光秀」
『なんだ、秀吉』
「まさか、お前まで愛を正室になんて言いださねぇだろうな」
『そのまさかだが、何か問題があるか?』
光秀は、秀吉の狼狽えぶりにククっと喉で笑う。
「の、信長様、これは何かの冗談ですよね?」
秀吉は焦った声で信長に向き直った。
『貴様がグズグズしていたから仕方がないな』
そう言うと、面白そうに笑う。
『久しぶりに皆が揃った。今宵は秀吉と愛の為に宴を開くぞ』
そう言うと羽織をはためかせ去っていく。
『じゃ、俺も料理の準備をするか』
『じゃあ俺はこの前手に入れた酒を持って来るか』
「私も、宴までに着替えてきますね」
天主に残された秀吉は、狐につままれたように暫く茫然とするのだった。
オマケ3 終