第21章 月と金星 (秀吉)
その夜、秀吉は陣営の近くの河辺に愛を誘い出した。
『もうすぐ満月だな』
夜空を見上げて秀吉が言う。
「本当だね。あ、見て、左下に金星が輝いてるね」
『きんせい?』
「うん。金色の星って書いて、きんせい」
『愛は物知りだな』
「ふふふ。ねぇ、金星と月、どっちが大きいと思う?」
『そりゃこれだけ違えば月だろう?』
「はずれ。金星の中に、月が三個半入るくらい大きいんだよ!」
『え?そうなのか?あんなに小さいのに』
「そう。月は近くにあるけど、金星はそのずーっと先にあるから小さく見えるの」
『そこまで気にした事なかったな』
「こうやって、同じ夜空に当たり前に見えてるけど、本当は凄い事なんだよね」
『なんだか俺たちみたいだな』
「私たち?」
愛が不思議そうに秀吉を見る。
『そうだ。愛が遠く時を超えてここまで来てくれたから、
今俺たちはこうやって隣で寄り添って居られるんだ』
「じゃあ輝くお月さまは、秀吉さんだね」
『だったら、遠くにあってもあんなに美しく輝く金星が愛だな』
愛が優しく微笑むと、秀吉は愛の身体を引き寄せて、
頭に優しく口付けをした。
「秀吉さん?」
愛が少しだけ不安そうに秀吉を見上げた。
『どうした?』
「秀吉さん…私とずっと居てくれるの?」
『当たり前だろ。お前が俺の命に価値を見出したんだ。
生涯かけてその責任を取ってもらわなきゃ困る』
-生涯をかけて責任を取れー
何処かで聞いたような言葉に、愛は驚いて目を見開く。
『愛、俺はお前のくれた覚悟に恥じないように生きていく。
そして愛の覚悟をこの生涯を通して守りたい。
だから、これからもずっと隣にいてくれるか?』
「秀吉さん…」
『返事を聞かせてくれないか?』
「何処にもいかない。ずっと秀吉さんの隣にいる。
それで、秀吉さんの生き方を私がずっと守っていくよ」
そして、月明かりに照らされながら、甘く優しい口付けをする。
これからの未来を確かめるように…。
終