第21章 月と金星 (秀吉)
「政宗!どうしたんだ…」
政宗の顔を見るなり、秀吉は嫌な予感がした。
『お前に届け物に来たんだよ』
「わざわざ、政宗が早駆けでか…」
政宗が持っている風呂敷には見覚えがあった。
愛がいつも、出来上がった着物を届ける際に使っているものだ。
その瞬間、秀吉は愛がもうこの時代に居ないのだと悟った。
『ほら、まずは手紙から。送り主は…』
「愛だろ…」
『なんだ、知ってるのか?』
「あぁ…知ったのはついさっきだがな。佐助から聞いた」
『そうか。なら話は早いな』
そう言うと、愛からの手紙を渡す。
秀吉は、静かにその文を開き、目で追っていく。
そこには、先程佐助から聞いた内容が書かれていた。
そして後半には、秀吉への感謝の言葉たち。
最後まで心配してくれてありがとう
最後まで愛してくれてありがとう
最後まで愛させてくれてありがとう
そして、最後を締めくくる言葉が目に入る。
ー何処にいても 貴方だけを 生涯愛していますー
最後まで読んだ秀吉は天を仰いだ。
込み上げてくるものを必死で堪えるために。
自分が存在しない時代ですら、自分を愛し続けてくれるという。
一体俺は、何に恐れてあいつを傷つけたんだ…
全ては謙信の言う通りだった。
今更取り返しはつかないけれど…
そこだけが謙信も外れたか…
そんな事を思いながら、政宗に向き直る。
『ほら、あとこれな。
この先何年もたって、自分が居ない事が当たり前になっても、
この着物に袖を通した時だけでも、思い出してくれるといいなって言ってたぞ』
「愛は馬鹿だな。俺が生涯あいつの事を忘れる訳がない。
一緒に添い遂げたいと思ったのも、一生誰にも渡したくないと思ったのも、
今までもこれからも愛しか居ないんだから」