第21章 月と金星 (秀吉)
『佐助。愛とは長い付き合いだろう。
あの女は、軽い気持ちで此処にいると思うか?』
『…。いいえ。彼女は相当な覚悟を持って、
秀吉さんと一緒に居る事を選んでいるはずです』
『秀吉、お前は愛の気持ちも聞かず、
勝手にお前の杞憂の中で物事を決めつけているのではないか?
一方的に守るなんておこがましい事よ。
守り方一つ間違えただけで、取り返しがつかなくなる。
まぁ、最早遅いみたいだがな』
「俺は…あいつに二度も覚悟を決めさせちまったのか…。
一緒に生きていく覚悟と、、、別れる覚悟を…」
『これを教訓に、今後はしっかりと相手の気持ちを聞く事だな。
人が人を守ると言うことは、ただその身を案じれば良いわけではない。
相手の気持ちごと守って、初めて守りきる事ができるものだ』
秀吉は、頭を何度も殴られた気分になった。
愛の身を案じて、自分が居なくなってからの想像をしていた。
けれど、そんな事よりももっと大きな覚悟で隣で笑っていたに違いないのだ。
「もう…取り返しがつかないのか…」
『それも杞憂だろう。わからない事に想いを馳せても
なんの役にも立たん。さっさと此処を片付けて帰れば良いだけだ。
その前に、一度は刀を抜けよ…と言いたい所だが、今のお前じゃ相手にしてもつまらんな』
謙信は、何処を見るでもなく淡々と話していた。
時折、遠くを見て、何かを思い出すように。
『佐助、もう帰るぞ。用は済んだのだろう』
『そうですね。あまり長居しても、謙信様が戦を始めそうなので、
今日のところは帰りましょう。
秀吉さん…押しかけてすみませんでした』
「あ、あぁ。気をつけて帰れよ」
天幕を出る寸前、謙信が振り返る。
『先程、わからずやの大将に文を書いて早馬で届けるように託した。
お前も早く安土に帰れるように準備をしておくんだな』