第21章 月と金星 (秀吉)
『俺としては、とてもプライベートなものでして…』
「ぷらい…べ…何だそれは」
『個人的な用事です』
『俺も、ぷらいべーとに違いない。秀吉、刀を抜け』
「謙信はちょっと黙っててくれないか。話がややこしい」
秀吉の顔が益々険しくなる。
『すみません、秀吉さん…。
謙信様、まずは俺の用事を優先するって約束でしたよね?
すぐ終わるので、待っていてもらえませんか。
さっき買ったお酒、飲んでて下さい。梅干し持ってきてますから…』
主君をたしなめながら、酒の用意をしている佐助を、
ポカンとしながら周囲が見つめている…。
『すみません。秀吉さんお待たせしました』
「それで?お前が個人的に俺に何の用だ」
漸く始まる話に、再び向き直る。
『単刀直入に言うと、愛さんの事です。
その後、どうなったかと思いまして』
思いがけず出された愛の名前に、再び面食らいながらも、
「その後って、一体何の話だ?」
その一言で、佐助の顔色がさっと変わる。
『もしかして…何も聞いてないですか?』
佐助にそう言われた秀吉は、出立の時、
あの時感じた胸騒ぎを、もう一度思い出していた。
「場所を変えよう。
おい、悪いが、暫く上杉の様子を見張っててくれないか」
そう家臣に告げると、佐助を自分の天幕へと促した。
「愛に、何があったんだ」
『もしかしたら、愛さんがあえて言わなかった事かもしれませんので、
後々、責めることだけはやめてもらえますか…』
そう前置きをしてから、佐助は愛から、光秀を通して相談を受けた事、
自分も同じ経験をした事、そしてどうしたらその現象が無くなったかの推論を話した。
全てを聞き終わった秀吉は、全身を駆け抜ける何とも言えない寒さを感じた。
もしかしたら、自分が戻る頃には、もう愛は居ないかもしれない。
その現実をにわかには受け入れられずにいた。
「それで光秀のやつあんな事を…。
愛も愛だ。何でそんな重要な事、話してくれなかった…」
(お前が居なくなったら、もう何もかも意味が無いんだよ…)