第21章 月と金星 (秀吉)
『飛ばすからな。多分今までより一番の早駆けをする。
振り落とされるなよ!』
そう言いながら、颯爽と馬へまたがると、
愛の身体を軽々と引き寄せて自分の前に乗せた。
(信長様も、政宗も、まるで私がちゃんと見えてるみたいだな)
人ごとのように感心しながら、政宗の馬におさまる。
『さぁ、秀吉を驚かせに行くぞ!』
「えっ?秀吉さん?!」
愛はこの時初めて、自分が何処へ連れて行かれるのかを悟った。
信長や政宗の気まぐれなどではない。
きっと、最初からこうするつもりだったんだ…
そう気づくと、熱いものが込み上げてくる。
そして、諦めていた秀吉への想いも溢れ出す。
(神様…もし神様がいるのなら、最後にもう一度秀吉さんに会わせて下さい!)
そう心の中で祈ると、ビュンビュン風を切る音も、
揺れる馬上も、不思議と何も怖いとは感じなかった。
その頃、秀吉は殊の外、事態の収束に手間取っていた。
どんなに和解に持って行こうとしても、織田軍の話には聞く耳を持たない。
このままでは、実力行使での収束を余儀なくされる。
「まずいな…このやり方では此方も援軍が必要になる。
信長様の本来の意向とも違えてしまう…」
『秀吉様、猿飛佐助と名乗る者が、秀吉様への御目通りを望んでいますが、
いかが致しましょうか』
「佐助だと?上杉謙信の右腕だ。直ぐに通せ」
『はっ』
思いがけない来訪に、秀吉は面食らいながらも、
良いきっかけを作れないかと考え始める。
(いや…謙信本人なら兎も角、佐助だけでは弱いか…)
『秀吉さん、お久しぶりです。
突然の訪問、申し訳ありません』
佐助の声に振り返ると、そこにはもう一人、思っても見ない人物が目に入った。
「上杉…なぜ此処にいる」
『すみません…俺が秀吉さんに用があると伝えたところ、
どうしても連れて行けと聞かなくて…』
『春日山は平和で暇すぎる。面白い話があるなら連れて行けと言ったまでだ。
なんなら、此処で豊臣秀吉とやり合うのも悪くない』
『謙信様、流石にそれは…協定結んでるんですから、
無理矢理戦に持って行かないです下さい』
突然現れた二人のやりとりに、呆気にとられながらも、
秀吉は居住まいを正し向き直る。
「それで、俺に何の用だ」