第21章 月と金星 (秀吉)
「あ!秀吉さん、おかえりなさい」
秀吉が御殿に帰ると、いつものように愛が出迎えてくれた。
『あ、あぁ、今日はずっと御殿にいたのか?』
先程の話を愛に聞かれていたはずなのに、
目の前の愛は何事もなかったように見える。
もし、落ち込んでいたら、きちんと話そうと思っていたのだが、
いつも通りの様子に拍子抜けしてしまった。
「本当は、政宗と一緒に光秀さんのとこでご飯作る予定だったんだけど、
仕事がおしちゃったから行けなかったんだ」
(嘘…だよな?光秀はさっき愛も居ると言っていたが…)
『そうか。あんまり無理するなよ?
もう体調はいいのか?』
「うん。この前は心配かけちゃったけど、もう大丈夫だよ」
そう言いながら、いつものように秀吉の羽織を脱がせてくれる。
すると、外から女中の声がかかった。
『秀吉様、政宗様がいらっしゃいました』
『あぁ、通してくれ』
(なにがどうなってるんだ?)
正に狐につままれたような気持ちで政宗を部屋に通す。
「あ、政宗、いらっしゃい。今日はごめんね、一緒に料理作れなくて…」
『え?あぁ…、それは大丈夫だ。ほら、これ作ったの持ってきてやったぞ』
政宗も、いつも通りの愛の姿に動揺はしたものの、
なんとか話を合わせた。
「わぁ、わざわざ持ってきてくれたの?
良かったね、秀吉さん!」
そう言って包みを受け取りながら、笑顔で話しかけてくる。
『そうだな。政宗、わざわざ悪かったな。
一緒に食べていくか?』
「そうだよ、政宗も一緒に食べよう?
もしかして、食べてきちゃった?」
『いや…食べてはないが…
じゃぁ、折角だから温め直すか?』
「政宗の料理はこのままでも美味しいから大丈夫だよ。
お腹空いちゃったから、早く食べたい!」
無邪気に笑う愛のペースに完全に巻き込まれた二人は、
その夜、何とも言えない気分で食事をしたのだった。