第3章 彼と私の秘密の言葉(三成)
(うーん。。案外大変だなこりゃ…)
愛は、書庫の整理に思いの外手こずっていた。
この時代の本は殆どが筆で書かれたもので、本のタイトル部分が無いものもある。
それを、書庫の台帳と見比べて場所を特定するのだが、
文字の読みにくさに愛は悪戦苦闘をしていた。
それでも三成が散々荒らしたであろう本の山は
やり始めた1/3位は減っただろうか。
薄暗い書庫に蝋燭の明かりを何個か灯しただけの中では、
一体どの位の時間が経ったのかもわからなかった。
(ちょっと休憩しようかな…)
そう思った時に、誰かの足音が聞こえた。
入り口の方に目を向けると、足音の主は、秀吉だった。
『ん?誰かいるのか?』
愛が書庫の整理をしている事を知らない秀吉は、
中に向かって声をかける。
「秀吉さん?」
『愛か?何してるんだ?』
そう言いながら、書庫に足を踏み入れ、中を見渡し目を見開いた。
『もっと荒れてるかと思ったけど…
これ愛が整理したのか?』
「うん。三成くんにやる事あるか聞いたら、
書庫の整理をして欲しいっていうから。
秀吉さんは、なにか取りに来たの?」
そう尋ねると、
『いや、三成が相当荒らしたと思って、ひと段落したから
片付けにきてみたんだ。あいつ、書庫の整理を愛に頼んだのか。』
全く…と言うように少し肩をすくめて秀吉が言う。
(これじゃ、三成の手伝いさせた意味がないな…)
「三成くんも、仕事片付いたら来るって言ってたけど、
きっと終わらないだろうね。あの書簡の量だと。」
仕事が終わっても、つい別の物に意識をとられるだろう
三成を思い浮かべて、力無い笑みをもらした。
『いつからここにいるんだ?』
「秀吉さんのとこ出て、すぐ位だよ?」
『愛、昼餉食べてないのか?!』
驚いている秀吉に、
「もうそんな時間なの?」
と訊く。
『今しがた俺は食べてきたからな。』
呆れたように言う。
「そっかぁ。でも食欲もないし、もう少しこのまま続けるね。」
『ん?体調でも悪いか?』
心配そうな秀吉は、愛のおでこに手を当てる。
「ううん。元気だよ。大丈夫。」
(なんか、心なしか元気ないな…)
『そうか。疲れたら無理するなよ?
俺も一緒に手伝うから、さっさと終わらせるか。』