第21章 月と金星 (秀吉)
『それで、秀吉は愛を正室に迎える気はあるのか?』
「何でお前にそんな事答える必要があるんだ」
『これが御館様からの命令だからだ』
「はぁ?また適当な嘘つきやがって!
そんな事、信長様が訊く必要ないだろ!」
((光秀さん、苦戦してるね…))
((まぁ、秀吉も警戒はしてるだろ。ほらお前声出すな))
『訊く必要はあるみたいだぞ。
もしお前にその気があるのなら、一度愛を信長様の娘に迎えると言っていた』
((えっ?!))
((馬鹿!声あげるな!))
((ご、ごめん…))
「何で…そんな事する必要がある」
『それは、御館様が、お前を右腕だと認めているからだろう』
「どう言う事だ」
『お前は本当に…鈍感にも程があるな。
織田信長の右腕に、娘を正室に迎えさせてやるって事だろう』
「右腕…俺が…御館様の…御館様が認められた…」
『おい、そこで止まるな』
「あ、うん。いや…ゴホン…」
『だから、愛を妻に迎えるのかと聞いている』
「いや…。それは…ない」
『なぜだ?もう既に一緒に暮らしているだろう』
「うるさい。お前には関係ない。ないと言ったらない」
((おい、まて!))
愛はそこまで聞いて、居たたまれなくなり走り出した。
(やっぱり聞くんじゃなかった…)
一目散に台所へと戻ると、土間に腰を下ろした。
『おい、大丈夫か』
漸く追いついた政宗が、小刻みに肩を揺らしている愛に、
心配そうに声をかけた。
「あはは、ほらね?
結局私の言った通りだった。おっかし。うふふ。
もう、満足でしょ?政宗も、光秀さんも。これが現実だから」
『おい、落ち着けって』
政宗は愛に触れようとしてハッとする。
一瞬、その身体が透けた様に見えたのだ。
「ホラ見て…やっぱり、こうなる運命なんだよ。
政宗のお嫁さんは、またいつか生まれ変わったらね」
そう言うと、うっすら輪郭だけ残した掌を政宗に掲げる。
政宗が何も声を掛けられないでいる間に、愛は立ち上がり、
光秀の御殿を後にした。