第21章 月と金星 (秀吉)
「光秀が俺を招くとは、どう言う風の吹きまわしだ?」
秀吉は光秀の部屋に入ってからと言うもの、
ずっと苦虫を噛み潰したような顔をしていた。
『別にそんなに警戒しなくても、何も企んではいない。
もうすぐお前が安土を離れる頃だから、こっちで労ってやろうと思っただけだ』
そう言うと、ククっと笑う。
「べ、別に俺は、お前に労って貰おうなどと思っていない。
もし本当に労う気持ちがあるのなら、常日頃のお前の態度をだな…」
『まぁまて、そういつもいつも同じ小言を言うな。
実を言うと、信長様から折り入ってお前に話ておけと言われた事があるんだ』
「御館様が?それを早く言え!」
『本当にお前は御館様の事となると、ムキになるな…
まぁ、茶でも入れるから待て』
「おいまて!お前の入れる茶は怪しすぎる。
俺が入れるから動くな」
そう言うと、秀吉は手際よくお茶の用意をする。
『よくもまぁ、人の家でそこまで手際よく用意できるものだな…』
光秀は少し呆れ気味に秀吉見る。
「うるさい。此処で茶を飲むときはいつも俺が淹れているだろうが」
光秀は肩を揺らしながら、
『そうだな。何だかんだ、お前はよく此処にいる気がするな。
三成を母親のように毎回迎えに来るからか』
と、愉快そうに思い出し笑いをする。
「全く、なんで三成がお前と気が合うのか、
さっぱり俺にはわからんな…」
『気が合うのは三成だけではないぞ?
愛もたまに来ている』
その言葉に秀吉の動きがピタリと止まる。
「なんだって?聞いたことがない。
そうやってすぐに嘘をつくな」
『嘘ではないぞ?この前も、政宗と三人で他愛もない話をしていた』
秀吉の眉間がピクリと動く。
「何を話す事がある」
『そうだなぁ、先日は、愛にいつ秀吉の正室になるのかと聞いたら、
そんな予定はないと言っていたな』
秀吉は大きなため息を着くと、
「下らない話に愛を巻き込むな」
と、荒げていた声を落ち着かせた。