第21章 月と金星 (秀吉)
『それで、俺の返事を聞いた謙信様は、すかさず刀を抜いて切りかかってきた』
「え?なんで!!」
『今まで稽古に精進しなかった分、叩き直すと…』
「物騒な上司だね…相変わらず…」
佐助は、自分と謙信の話を一気にすると、
ゆっくりお茶を啜った。
「それで?消えてくのを食い止めるために何をしたの?」
佐助は湯呑みを置くと、愛をまっすぐに見た。
『何もしていない。その日から、その現象は無くなったから』
愛は目を見開いて声も出ない。
「それって、結局…答えはないってこと?」
『いや、それが答えだよ』
「ど、どういう…」
『俺も最初はわからなかった。でもある時ふと、一つの仮説に繋がったんだ』
愛はゴクリと唾を飲み込み、佐助の言葉に集中する。
『俺は、多分、歴史を変えた。
いや、正確に言えば、多分だけど、自分の名前を歴史に残した』
「え?」
『謙信様は、これからの全ての戦に、俺の名を刻めと言った』
「あ…」
謙信の右腕となった佐助は、きっと後世に残る人物として名を残すだろう。
それを検証する術は、この時代には無いけれど…。
「そういえば、政宗や光秀さんも、佐助君は今や上杉謙信の右腕として有名って言ってた」
力なく言った愛の言葉に、佐助は目を輝かせる。
『政宗さんと光秀さんが?!じゃあ家康さんにももしかして…』
浮き足立った気持ちで愛を見ると、暗い顔で俯いている。
『ごめん…。でも、愛さんも大丈夫でしょ?』
「え?私は…名前を残す方法なんてないよ…」
『本気で言ってるの?豊臣秀吉の妻なんて、俺なんかよりも有名になるんじゃ?』
佐助の言葉に愛は目が飛び出るほど驚いた。
「と、豊臣秀吉の、つ、つ、妻?!」
『え?だって恋人なんだよね?一緒に住んでまでいるし…
そういう話、されてるんじゃないの?』
「いや、全くそんな…大それたこと思ってもなかったから…
それにこの時代って政略結婚全盛期なんじゃ…
私、一般人だし、無理だよ…どう考えても…」
(今まで言われたことないのは…秀吉さんだってそのつもりは無いからだろうし…)