第21章 月と金星 (秀吉)
「佐助君、急にごめんね…。大変だったでしょ?」
そう言いながら、向かいに座る。
『俺も、だいぶ会えてなかったから気になっていたんだ。
まぁ、理由をつけるのに手こずったけど、此方は問題ない』
そう言いながら、改めて自分のいる部屋を見渡す。
『でもまさか、君からこんな密会の申し込みがあるとは思わなかった。
君が来るまで、この部屋の作りを調べていたんだがけど、
ここは屋根裏にも侵入できない作りだった。完全に密会用の部屋なんだな…』
佐助の言葉に改めて光秀の凄さを知る。
「そうなんだ?私もこの茶屋は知ってたけど、
裏にこんな離れがあるなんて全く知らなかったよ!」
『光秀さんから手紙を貰ったが、半ば罠かと用心はしていた。
来たのが本当に君で、少しびっくりしたんだ』
佐助は口元だけフッと笑みを見せると、改めてに向き直った。
『それで?こんな所まで用意する位の緊急な用事って、
何があったの?時期も時期だし、困った事でも起きた?』
佐助の言葉に、愛は再び緊張を覚える。
「困ったと言うか…どうしていいかわからなくて、
佐助君なら何か知っているんじゃないかって思って」
『俺で分かる事なら何でも協力するよ』
「実は…最近、自分が透けて見える時があるの…」
『えっ?』
「驚くのも無理ないよね。私も最初は疲れて目が霞んでるんだと思ったの。
でも…違うの。この前は、感覚はあるのに、完全に指先が見えなかったの…」
『そうか…』
そう言う佐助の声は、いつもの冷静さを取り戻していた。
「もしかして…心当たりあるの?」
佐助は暫く考えるように無言になったが、
意を決したように口を開いた。
『実は、俺も同じ現象になった事があるんだ』
思いがけない佐助の言葉に愛は驚きを隠せなかった。
「佐助君も?!なら、今は?もう大丈夫なの?
佐助君はここにいるってことは、大丈夫なの?」
愛はまくしたてるように佐助に詰め寄った。
『愛さん、落ち着いて』
「あ…ごめん…。ずっと怖かったから。
朝起きたら、ここから消えてしまうんじゃないかって…」
『うん。わかるよ。俺もそうだったから』