第21章 月と金星 (秀吉)
『ほぉ。上杉の忍びに連絡が取りたい…と』
「はい…どうにかして佐助君と話がしたいんです。
それも、早急に…。決して織田軍を裏切るような事をではないので…」
愛のお願いに、光秀は腕を組んだまま目を瞑った。
『おい…でも今はちょっと間が悪くないか…。
秀吉が行くまでまてないのか』
沈黙を破ったのは政宗だった。
『あいつが遠方に行く理由、お前も知ってるだろう』
「それはわかってる。
でも、私もどうしても…一日でも早く話さなければいけなくて…。
光秀さんなら、どうにかなりませんか」
秀吉が小隊を連れて動く理由。
それはまさに、協定を結んだはずの上杉武田の傘下の国の一部が、
その協定の決定に納得できないと、不穏な空気を醸していることに発端する。
もちろん収めに出向くだけで、戦をしに行くわけではないが、
今は妙な動きがあれば何が起こるかわからない状況ではあった。
『確かに、秀吉が沈静化してからであれば、動きやすくはなるがな…』
光秀も漸く口を開ける。
『あの忍び…佐助は最早、上杉謙信の右腕と認められている存在だ。
その佐助と、織田の姫が密会ともなると、今燻っているやつらには到底面白くないだろうな』
「やっぱり…駄目…ですよね…」
愛はがっくりと肩を落とす。
『おい…大丈夫か』
あまりの落ち込みように、政宗が驚いたように声をかける。
『まぁ、暫くすれば、今より堂々とやりとりもできるようになるだろ』
そう言いながら愛の肩に触れようとした
政宗の手をそっと愛が掴む。
「そうだね。その時が来るのが、間に合えば…ね」
そう言うと、思わず一粒涙が落ちた。
思いがけず泣いてしまった愛は、慌てて目元を拭う。
「ご、ごめん!」
『こら、泣くほどの事かよ!』
と、政宗が慌てれば、
『間に合えばとはなんだ。俺はまだ出来ないとは言っていない。
お前が急ぐ理由次第だがな』
と、光秀も目を見張る。
「すみません!今日の事は忘れて下さい。
あと、こんな我儘言いにきたって知れたら怒られちゃうので、
絶対秀吉さんや他の人には言わないで下さい…お願いします」
そう言うと、再び頭を下げ、愛は光秀の部屋を後にした。