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イケメン戦国★センチメンタルLOVE

第21章 月と金星 (秀吉)


「よし、出来た。どうにか明日のお届けに間に合ったな…」


独り言を言いながら、今出来たばかりの着物を広げてみる。
ここのところ立て込んでいた注文も、この一着でひと段落がつくところだった。


出来上がった着物を衣桁に丁寧にかける。
襟を直そうと手をかけた時、愛はギクリとその動きを止めた。


「え…また…」


ボソッと呟きながら、まじまじと自分の指先をみると、
何故か着物の柄が透けて見える気がした。


恐る恐る指先に触れてみるが、そこにはしっかりと感触がある。
もう一度見れば、何の変哲も無い自分の指があるだけだ。
少しホッとして息を吐くと、


「やっぱり目が疲れてるんだな…」


と肩を落とした。



その時、廊下をバタバタと歩いてくる音がする。
ハッと振り返ると、秀吉が足早にこちらに歩いてくるのが見えた。



「秀吉さん?お仕事は…」



『愛、大丈夫なのか?』


少し息を上げながら、秀吉が愛の両肩に優しく置かれる。


「え?何が…?」


『三成から、お前の元気が無さそうだと聞いた。
朝は変わらないように見えたが…どこか具合が悪いのか?』


昼間会った三成の倍くらい心配そうに、秀吉が愛の顔を覗き込む。



「もう…三成くんてば大袈裟なんだから。
大丈夫。どこも悪く無いよ。ちょっと忙しくて疲れただけだから…」



その言葉を聞き、秀吉はようやく緊張を解いた。


『そうか…それなら良かったが…。
あんまり無理するなよ?お前は頼まれたら断れない優しいやつだから』


そう言うと、今度は優しく愛の髪を梳く。


「大丈夫。もうこれで、しばらくゆっくりできるから。
心配してくれてありがとう」


愛がにっこり微笑むのを見て、秀吉は目を細める。


『お前を残して家を空けるのは、なんだか心配だな』


「もう秀吉さんは心配性なんだから。
ちゃんと秀吉さんが帰ってきたときに、元気でお出迎えしますから安心して下さい」



少し口を尖がらせながら言うものの、あと十日ほどもすれば、
暫く遠方へと旅立つ秀吉を思うと、チクリと胸が痛んだ。



(こればかりは、何度経験しても慣れないな…)



そんな事を思いながら、いつものように他愛もない話を始めるのだった。





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