第20章 貴方への愛を紡ぐ日(家康)
「なんで…。それ、家に置いてきたのに…」
顔から火が出るほどの恥ずかしさに、掠れた声で愛が言う。
「家に置いてきたのか?お前の家は昨日から安土城ではないのか?」
信長が悪い笑みを浮かべながら言う。
「も、もういいです!早く食べましょう!
せっかく政宗が作ってくれた料理が冷めます!」
そう言うと、愛は目の前の料理を勢いよく食べ出す。
その姿に、みんなは笑いをかみ殺すように顔を見合わせている。
家康だけは気まづそうに黙々と愛と同じように料理に手をつけた。
宴も終わりを告げ、それぞれが自分の御殿へと戻って行く。
宴の間中、愛は家康とは目を合わせずに過ごしていた。
信長も天主に戻ってしまうと、広間には愛と家康だけが取り残される。
「じ、じゃぁ私も戻るから…」
そう言うと、愛は部屋に戻ろうとする。
『待って!』
廊下に出かけた愛を家康の声が引き止めた。
『どこに…行こうとしてるの』
「どこにって…自分の部屋」
『家に…帰るんじゃないの?』
先程の信長の言葉に、家康はずっと胸を抉られるような気持ちでいた。
(愛の帰る場所は、変わってしまったんだろうか…)
ずっとそれだけが頭をグルグルと巡っていた。
だから決めていた。ちゃんと謝ると。
家康の問いかけに黙ったまま目を合わせない愛に痺れを切らす。
『帰るよ』
「え?」
『家に帰ろうって言ってるの』
聞き返された事に、ついいつもの天邪鬼が顔を出し、
優しい言葉が出てこない。
(ちがう!ちゃんと謝らないと)
「そんな…自分勝手な…」
機嫌の悪そうな声で言われた愛は
素直に頷けない。
『だから…いつまで…』
「私、もう寝るから」
そう言うと、部屋に向かって歩こうとする。
『ごめん!』
家康の手が愛の手首を掴む。
『ごめん…。ちゃんと話しを聞かなくて、
勝手なことばかり言って…』
急に素直になった家康に戸惑いを隠せず、つい心とは違う言葉を選んでしまう。