第20章 貴方への愛を紡ぐ日(家康)
しばらく経っても全く戻ってこない愛に、
家康はさっきの自分の言葉を思い返す。
〜今からでも逢いに行ってくれば?別に帰ってこなくてもいいけど〜
そんなの本心じゃない。勢いで出てしまった強がりでしかなかった。
『でも、なんで三成なんだよ…』
そう呟いた時、襖の外から声がかかった。
「家康、いるか?」
(秀吉さん?)
『はい。どうしました』
襖を開けて帰ってきた秀吉は、苦虫を噛み潰したような顔をしていた。
『何かあったんですか?』
「何かあったのはお前達の方だろう。何があったんだ」
そう言うと、家康の前に腰を下ろした。
『何で秀吉さんが知ってるんですか…』
「さっき御殿に帰ろうとしたら、こんなに暗くなってるのに、
愛が一人で歩いていたから、危ないだろって声をかけたんだ」
『え?愛が?』
そこで初めて、家康は愛が外に出て行った事を知った。
どうせ女中に捕まって湯浴みでもしているんだろうと思っていた。
「あぁ。えらく怒ってたぞ。珍しい。
城の自分の部屋に帰るって言うから、今送ってきたんだ。
聞いても何も教えてくれないから、こうしてお前のところに来てる」
(本当に出て行くって…どう言う事?)
今まで、多少なりとも喧嘩はした事があったが、
安土城に帰るなんて事は初めてだった。
「信長様が知ったら、もうここに帰してもらえないかもしれないぞ…。
何があったのか言ってみろ」
確かに、信長に愛が城に戻った事が伝われば、
本気で戻してもらえないかもしれない。
それよりも…
ーーまさか…もう戻らないつもりじゃないよね?ーー
さっきまでの怒りは、あっという間に不安に変わった。
よく考えたら、愛が何を考えて、何をしていたのか、ちゃんとわかっていない…
家康は、ポツリポツリと秀吉に先程あった出来事を語り始めた。