第20章 貴方への愛を紡ぐ日(家康)
『愛、何してるの?』
仕事を終えて帰ってきた家康は、真っ先に愛の部屋に入る。
御殿に帰ってきて早々に、女中に泣きつかれたからだ。
『愛様に、湯あみのお声掛けしても、お食事のお声掛けしても、
まったく反応がないんです…』
(はぁ…。また仕事に夢中になってるのか。
誰かを思い出すから、本当にやめて欲しい…)
「ふふっ!できた!
急に思いついたにしては、よく出来たな」
家康の声にも気付かず、愛は今出来上がったばかりの
小さなちりめんの縫いぐるみを手のひらに乗せて微笑んだ。
明日は二月十四日。五百年後なら、女の子がドキドキしながら迎える日。
もういい大人だから、学生の頃みたいにはしゃぎはしないけど、
それでも、日頃お世話になっているみんなに何か贈りたい。
愛はそんな事を考えながら、端切れの整理をしていた。
ふと、時間が空き、先日自分の着物を仕立てた際に出た端切れで、
小さな熊の縫いぐるみを作ってみた。
フワフワした素材は用意できないけれど、余っていたちりめんで作った熊に、
自分と同じ柄の着物を着せる。
何となくハートを抱えるようにしてみれば、思いのほか形になった。
(そうだ!確か、みんなのも…)
そこで急に思いついたのは、安土城の武将の面々に注文を受けた時に余った端切れの存在。
(これでクマたん作ったら、みんなとお揃いのが出来る!)
バレンタインだからと、仰々しいものを送るつもりもなく、
この時代に来てから何度か作っていたクッキーのようなものを小分けにして用意していた。
(これに、クマたん付けてあげたら、びっくりしてくれるかな)
ちょっとした遊び心だったが、作り始めれば夢中になり、
朝からずっと部屋に篭っていた。
だから、女中が呼ぶ声も、落ちていく陽の光にも、
家康の呼ぶ声さえも気付かなかった。