第19章 あの星空の彼方に(謙信)
(すこし無理をさせ過ぎたか…)
額に薄っすら汗を滲ませ、落ちるように眠ってしまった愛の、
張り付く髪を整えながら謙信は苦笑する。
月明かりの中抱いた愛は、
謙信の目に、この世のものとは思えない美しさを見せた。
本当に、月に帰ってしまったりはしないだろうか…
そんな焦燥に駆られた。
自分だけのもだと、何度も何度も確認するように記しを付ける。
そして、何度も何度も求め、自分に縋る愛を追い込んだ。
(かぐや姫などとは比べものにならんな…)
あくまでもそれは創作された物語。
今、現実に腕の中で眠る女は、本当に時を越えてやってきたのだから。
そして、その女は、ずっと自分の隣に居たいと言う。
もう手放せるわけがない。
愛しいと言う言葉では、表しきれない感情が渦巻く。
「もう、お前がいない明日など、想像するに耐えん…」
そう呟くと、静かに寝息を立てる愛の頬に口付けを落とす。
「ん…謙信様…」
「起きたのか?」
「・・・・」
愛は寝息を立てたまま、謙信の胸に顔を擦り寄せ、
幸せそうに微笑んだ。
「謙信様…愛してます…」
謙信は、愛の身体を抱きしめると、
そっと瞼を閉じた。
「愛…どこにも行ってくれるなよ。
お前が想いを馳せるのは、星の彼方などではなく
どんな時も、この俺だけなのだからな…」
さっきまでの不安や焦りはもう無い。
誰が何と言おうと、愛は今この腕の中にいる。
そして、自分を一番に愛していてくれるのだ。
ーーーならば、紡ごう。
おとぎ話などではない物語を、自らの手でお前とーーー
あの星の彼方に 終