第19章 あの星空の彼方に(謙信)
「こうやって、謙信様の着物を羽織っていると、
離れていても守られている気持ちになります。
そして、そのまま星を見上げると、
この同じ星空の下に謙信様がいるって実感できるんです…」
「愛…」
愛は、抱きしめている腕に優しく力を込める。
「私が、毎晩星空を見て想っているのは、
まぎれもなく、謙信様の事だけですよ…」
愛の言葉を聞くと、謙信は顔が見えるように身体を離した。
その顔には、不安な表情は影を潜め、柔らかいものだ。
愛はそっと謙信の頬を両手で包むと、
自ら触れるだけの口付けをする。
「謙信様、今年もずっと私を隣において下さいね」
相当な勇気で口付けた愛は、真っ赤になって照れ隠しを言う。
「当たり前だ。今年だけではない。
お前が嫌だと言っても、これから先、死ぬまでお前の居場所は俺の隣だ」
「ふふふ…嬉しいです。
ねぇ、謙信様、二人だけで少し飲み直しませんか?
星を見ながら」
「そうだな。こうして二人きりになるのは久しぶりだ。
それに、今宵はもう少しお前の星の話が聞きたい気分だ」
(そうすれば、また離れていても、
夜空を見上げればもっと愛を近くに感じられる)
二人は火鉢をそばに置き、並んで星見酒をする。
ぴったりと身体をくっつけて、決して離れないように。
「そういえば、なぜ月より星が好きなのだ」
ふとした疑問を謙信が口にした。
「星は、変わらないからです」
「変わらない?」
「月は私達から近いから、日ごと満ちたり欠けたり、
時に見えなくなったりします。
でも、謙信様、星ってものすごぉぉく遠くにあるんです。
だから、見える場所がほとんど変わらないんですよ」
愛の言葉を理解しようとするが、謙信には月も星も遠いものに感じていた。
「そんなに違うものか?」
「はい。例えばほら、前に謙信様に話したオリオン座のあの一番輝く星は、
今見えてるのが五百年前の光です。
だから、私が未来で見てた同じ星は、もしかしたら今日光ったものかもしれなくて…」
夢中になっていた愛はハッとして謙信を見る。
「すみません…わかりづらいですよね」