第19章 あの星空の彼方に(謙信)
「愛、まだ寝てなかったのか」
宴の席から部屋に戻ってみると、
先に戻ったはずの愛は、
謙信の羽織をはおって縁側で空を見上げていた。
「お戻りになったのですね。皆んなも解散したんですか?」
愛が笑顔で謙信に言う。
「あぁ。あいつらは昨晩も夜通し飲んでいたからな。
誰が一番いい初夢を見るかなどと下らない話をしながら戻っていった」
その状況を想像して、愛がクスクスと笑った。
「ちゃんと明日覚えているといいですね、みんな」
謙信は、愛の隣に腰を下ろすと、
腰を抱き寄せた。
「お前は…こんな寒空で、冷え切っているじゃないか。
何をしていたんだ?」
「星を見ていたんですよ。ほら、此処からは本当に良く星が見えます」
そう言うと、愛は再び夜空に顔を向ける。
「愛は月よりも星を見ているのか」
「そうかもしれません。私は、かぐや姫じゃないですからね」
そう言うと、いたずらっ子のような笑みを向ける。
「当たり前だ。月になんぞ、お前をやらん」
そう言って抱き寄せる腕に少し力を入れた謙信の言葉は、
どこか拗ねたような声色になる。
「お前は…なぜそんなに星が好きなのだ。
俺が帰ってくると、最近は大概こうして星を見ているが…
愛は、あの星空の向こうに、何を思っている…」
その言葉に、愛はゆっくりと謙信を見つめる。
色違いの目は、いつもの鋭さは消え失せ、
どこか不安な子供のように揺れていた。
「謙信様…?」
「お前は…故郷と同じ星を見ているのか…」
その言葉に、ふと宴の前の謙信の様子を思い出した。
ーーどこにも行ってくれるなーー
(きっと佐助君との話聞かれてたんだろうな…)
愛は、今度は身体ごと謙信に向き直り、
両腕を謙信の背中に回すと、ゆっくり話し始める。