第19章 あの星空の彼方に(謙信)
「謙信様、こうやってゆっくりお話しできるのは久しぶりですね」
謙信の盃に酒を注ぎながら愛が言う。
「そうだな。お前には寂しい想いをさせてしまっただろう」
そう言いながら、今度は謙信が愛の盃に酒を注いだ。
年の瀬も迫った頃、近隣の小国で小競り合いがあった。
常日頃から諍いの多い国であったため、
謙信が直々に出向き牽制をする必要があったのだ。
そこから春日山城に戻ったのは、大晦日の深夜のことだった。
「謙信様、あまりお休みになってないのではないですか?
今日は新年だからと飲みすぎてはいけませんよ?」
言葉は咎めているが、愛は謙信の隣にいる喜びを隠しきれずに
その顔は満面の優しい笑みが溢れていた。
謙信は、その様子に思わず愛の頬に手を伸ばす。
「そんな顔で咎められても、全く響かんな」
そう言うと、そのまま愛の顎を掬い、
触れるだけの口付けを落とす。
「んっ…」
優しい顔の謙信が愛から唇を離す。
『ちょっと。俺たちも居るんですから、
二人だけの世界に入らないで下さいよ!』
愛が幸村の声にハッとして振り向くと、
ニヤニヤと笑っている信玄、顔を真っ赤にした幸村、
無表情で酒を飲み続ける佐助が目に入る。
『幸〜、照れるくらいなら見なきゃいいじゃないか』
信玄が面白そうに言うと、
『て、照れてねー!勝手に目に入るところでやるからだろうが』
と、盃の酒を煽った。
『愛も謙信も久し振りにゆっくり話せてるんだろうし、
大目に見てやりなさい。
でも、もう少ししたら俺も、かぐや姫からお酌をされたいものだね』
信玄の言葉に愛は小首を傾げる。
「かぐや姫?ですか?」
無言で飲んでいた佐助が慌てて信玄を制する。
『信玄様その呼び方は…』
「信玄、お前は新年早々どうしても俺に斬られたいようだな」
あからさまに機嫌の悪くなった謙信に
愛は何のことかわからず困った顔になる。
『今日の満月と愛を重ねて、信玄様がずっとかぐや姫って言ってるんだよ』
幸村の言葉に、愛はさらに困惑してしまった。