第3章 彼と私の秘密の言葉(三成)
シャっと開いた襖からは、政宗が顔を出した。
『これは、政宗様、お戻りですぐ朝餉をすみません。
ここには誰もおられませんよ?』
政宗は、心配そうに三成のそばに胡座をかいて座る。
「だとしたら…」
キョトンとする三成の目を見据えると、
「お前、重症だぞ。心の声、全部表に出ている。
結構な大きさで!」
一瞬にして三成の顔が上気し、そのまま頭から煙でも出そうだ。
『ま、政宗様…』
三成の両手がワタワタと空を切る。
「大丈夫だ。落ち着け。愛は御殿にいない。」
そう言うと、やっと三成は落ち着きを取り戻した。
『だが、お前、三日間も無視したら、流石の愛も辛くなるだろう。』
「え?なんでそれをご存知なのですか?」
きょとんとして政宗を見つめる。
『だから、心の声は全部聞こえてたって言ってるだろう。』
呆れた顔で政宗が言う。
「今日はちゃんと目を見て話してやれよ?」
『そうですね、だいぶ仕事も落ち着いてきましたからね…』
そう言って手元の書簡に目をやる。
「三成わかってるか?」
またもや、何がなんだかわからずといった目線を政宗に投げかける。
「お前が仕事が落ち着くって事は、秀吉も落ち着くって事だ。
そうすれば、愛のここでの手伝いも終わり、
また信長様の元へ戻るから、簡単に逢えなくなるんだぞ。」
三成は、真剣な目を見開き、身体中が逆毛立つような感覚に見舞われた。
『私は…五日も愛様との時間を無駄にしてしまったのですね…』
また、元どおり天守で信長の側にいる愛を想像して、
先程の秀吉との事を見た時と同じ、ドロドロした感情がわきあがる。
「政宗様…この、何か言いようも知れぬ、腹の底から湧き上がる
何とも言えぬ感情は何なのでしょうか…」
『例えば、愛が家康にああいう風に優しい顔で笑いかける姿を
見たときとかの感情か?』
そう言うと、廊下の奥の方に目をやる。
すると、そこには城への使いを終わった愛が
たまたま秀吉を訪れた家康と、秀吉の部屋に行くところだった。
「確かに、その通りです。
それにしても、愛様は、あんな風に柔らかく笑うのですよね。
最近は、あまり私には見せてくれません…。」
それを聞いた、政宗は呆れたように
『それはな三成。嫉妬だ。』